8月22日のコラム「アメリカ株は再度大きく下落するリスクがある」
では、アメリカ株の下振れリスクが依然大きいと述べた。その後、8月23日にダウ工業株30種平均(ダウ平均株価)は2万5500ドル前後まで急落する場面があった。ただ、同29日には米国との関税交渉について中国の姿勢が穏当であることを期待させる報道などをうけて、ダウ平均は約2万6300ドルと、急落前の水準までほぼ戻った。
米中貿易戦争の下振れリスク織りこみはこれから
アメリカ株市場は、米中貿易戦争に関する思惑で一喜一憂している状況と言える。北京で10月初旬に行われる中国の政治方針を決める会議の前後に、米中貿易戦争が沈静化するとの見方も聞かれる。米中貿易戦争の展開について、筆者は確固たる見通しを持ち合わせていない。だが、両政府が妥協するには至らず貿易戦争は長期化するため、米国が表明する対中関税のほとんどは実現すると想定している。
問題は、米中による関税引き上げ合戦によって、両国を中心に世界経済がどうなるかである。筆者は、世界貿易の停滞が長引くため、製造業を中心に世界経済の成長率は2020年まで減速すると予想している。これまで利益拡大が続いてきた、アメリカ企業の利益の頭打ちがより鮮明になると見込まれるが、アメリカの株式市場は企業利益の下振れリスクを十分織り込んでいないとみている。
そして、目先のリスクイベントとして注目されるのが、イギリスの欧州連合(EU)からの離脱問題である。ボリス・ジョンソン氏は7月下旬に保守党党首選に勝利し、政権を発足させると、10月末が期限となっているEUからの離脱を強硬に進める姿勢を強く打ち出した。それ以降、8月中旬まで外国為替市場でポンド安が進むなど、「合意なきEU離脱リスク」が懸念されている。
10月末の期限までに合意なきEU離脱が実現する可能性は、現状で約40%と筆者は想定している。イギリス議会では合意なきEU離脱を阻止する政治勢力が強いことから、総選挙が想定されるなど今後の政治情勢が大きく変わりうる。どのような結末になるかは、同国政治の専門家ではない多くの投資家にとっても、見通すことは難しいだろう。
金融市場は、10月末までに合意なき離脱が起きるかどうかの思惑で揺れ動いており、合意なき離脱となれば円高、株安をもたらすと見る向きが多い。筆者が警戒しているアメリカ株の下落は、合意なき離脱への懸念が高まり、市場心理が悪化することによって引き起こされる可能性がある。
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