また、2019年初からのアメリカ株反転のドライバー(推進力)となったのは、米連邦制度準備理事会(FRB)の金融政策への期待である。FRBは、年初にそれまでの利上げ方針を撤回し、その後もインフレ率の上振れを許容するなど緩和姿勢を強めた。今後も、FRBの金融緩和は、引き続き株式市場の支えになるだろう。
一方、8月14日には、ダウ平均は1日で約3%急落したが、この日アメリカ株下落の主たる材料となっていた米中貿易戦争について新たなニュースはなかった。ただ債券市場において、10年や30年満期の長期国債金利が大きく低下し、市場ではいわゆる「逆イールド」が広がったことが嫌気された。将来の成長率やインフレ予想を反映する長期金利が短期金利を下回ることは、今後のアメリカ経済の成長失速、インフレ低下期待が強まっていることを示唆するが、その懸念が株式市場の心理を冷やした。
昨年来、度々聞かれる逆イールドが、近い将来のアメリカの景気後退につながるとの見方に、筆者は与しない。アメリカの長期金利は、ECB(欧州中央銀行)や日本銀行の金融緩和政策の影響で大きく低下しているため、単純に過去の経験則は当てはめることは難しいからである。
また、7月には経済が底堅さを保つ中でFRBは利下げに転じたが、これは異例に素早い対応と位置付けられる。素早く追随した欧州中央銀行(ECB)も含め、中央銀行の政策転換がもたらした世界的長期金利の低下は、2020年以降、米欧の国内需要を上向かせるだろう。このため、アメリカ経済はいずれ持ち直し景気後退には至らないとみている。
長期金利再上昇が米株の大幅調整を引き起こす懸念
だが、最近の株式市場の心理の変化は見逃せない。「逆イールドへの懸念」が高まったが、(事実かどうかはともかく)FRBの政策対応が後手にまわり、その結果、今後経済・インフレが低下すると、株式市場が解釈し始めたとみられる。年初から高まってきたFRBの金融緩和への株式市場の期待が、疑念に変わりつつあることを意味する。つまり、「金融緩和を大胆に行う」との株式市場の期待に、FRBが十分応えられないリスクが高まっているのだ。
さらに、債券市場での金利低下が「行き過ぎ」の領域に入っていることが、目先の株式市場にとって悪材料になりかねない、とみられる。というのも、最近のアメリカ金利の値動きをみると、インフレ指標などファンダメンタルズはほとんど影響せずに、FRBに遅れて金融緩和に舵をきったECBの政策転換への期待、貿易戦争関連のニュース材料、そして需給逼迫への思惑が債券市場のブーム(金利低下)をもたらす様相が強まっている。このため、金融市場の中でも、米欧国債はもっとも割高なアセットクラスに位置付けられると筆者は判断している。
筆者のこの見方が正しく、米欧金利上昇によって、安全資産への資金シフトの行き過ぎが是正されるのであれば、割高な米欧債券市場が調整するため、低下していた長期金利が上昇する。これがバリュエーションの面から株安をもたらす要因になりかねない。この観点からも、筆者は当面のアメリカ株市場の調整リスクは小さくない、と判断している。
なお、6月14日のコラム「今のままでは大幅な円高ドル安になりかねない」では、1ドル=110円の中心レンジで動いていたドル円相場が、円高に動くリスクを指摘した。6月半ば以降のアメリカ金利の大幅な低下と比べれば円高ドル安への変動幅は小さいとも言えるが、ドル円は105円前後とレンジが円高方向にシフトしている。今後は、米金利の動向次第だが、日本の当局からの政策アクションが期待されないため、さらに円高ドル安が進む可能性があると警戒している。
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