海外ファンドが日本株売り継続 薄れ始める日本への関心
[東京 3日 ロイター] -日本株が下げ止まらない。ドル/円が実需の買いで下げ渋っているにもかかわらず、海外勢の売りが継続しているためだ。米緩和縮小と新興国問題で投資家のリスク許容度が低下しているという。
アベノミクスに対して急速に失望感が高まっているわけではないが、日本への関心が薄れ始めているとの指摘もある。期待感を維持するため、市場では早期の成長戦略策定や追加金融緩和などを求める声が広がっている。
<ソフトバンク株が急落>
日経平均<.N225>は支持ラインとみられていた1万4800円をあっさり割り込んだ。ドル/円は朝方の102円付近から102円40銭付近まで円安方向に振れたが、材料視されず、日経平均は後場に入ると下げ幅を広げ、1万4615円まで軟化。下落トレンドが鮮明になってきている。
売り主体は引き続き海外投資家だ。「ヘッジファンドなどの売りが継続している。米国の量的緩和縮小と新興国問題で、リスク許容度が低下しているようだ」(大手証券トレーダー)という。新興国は利上げでインフレや通貨安に対抗しようとしているが、効果はまだ見られず、通貨売りが止まらない国も多い。
ヘッジファンドの売りが継続している証拠とみられているのが、ソフトバンク<9984.T>やファーストリテイリング<9983.T>など日経平均寄与度の大きい銘柄の下落だ。特段、売り材料が出てないにもかかわらず、3日の市場でソフトバンクは6.60%、ファーストリテイリングは2.43%と急落。下落率が日経平均の1.98%、TOPIXの1.99%を大きく上回った。
日経平均を昨年末、押し上げたヘッジファンドは、日経平均先物に加え、ファーストリテやソフトバンク、ファナックなど指数寄与度の高い銘柄も大量に買い越したとみられている。それらの銘柄を買うことで効率良く、日経平均を押し上げることができるからだ。このため「ソフトバンクやファーストリテが理由もなく市場平均よりも突出して下落するのは、まだ彼らのポジション調整が終わっていないことを示す」(国内証券)との指摘は多い。
<グローバルな巻き戻し>
こうした海外勢の売りはアベノミクスへの失望というよりも、現時点では、米量的緩和の縮小開始や新興国問題を背景としたリスクオン・ポジションの巻き戻しの範囲内だとみられている。
31日公表されたバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ・グローバル・リサーチのリポートによると、1月29日終了週に世界の株式ファンド全体で104億ドルが流出している。日本株は昨年末までの上昇率が高かった分、反動も大きくなっているが、日本株だけが売られているわけではない。
海外勢は今年に入り日本株を売り越しに転じているが、3週間で計4294億円と昨年の買い越し額15兆円に比べれば小規模だ。年初から8070億円買い越していた個人投資家が売りに回ったことで、足元は日本株の下げがきつくなっている。個人投資家中心の新興株式市場では、東証マザーズ指数<.MTHR>が3日の市場で8.25%と急落した。
大和証券・投資戦略部チーフストラテジストの成瀬順也氏は「年始から海外勢の売り越しが続いているが、アベノミクスに対して失望しているわけではない」と指摘。「足元では短期筋が日本株のおいしい時期がいったん過ぎ去ったと判断しているだけで、長期の海外勢は好業績の個別株を拾っている。短期筋から長期筋への移行が進めば、上昇相場は長続きするだろう」との見方を示す。
<ポジション調整も進展>
また、投機筋のポジションもかなり調整が進んできている。
米商品先物取引委員会(CFTC)が発表した1月28日時点の投機筋の円建て日経平均先物ロングポジションは3万7983枚。昨年末の株高・円安相場が始まった11月上旬の3万枚程度に接近。IMM通貨先物でも投機筋の円売り越しが8万6192枚と11月の水準に近づいてきている。売り一巡が近い可能性もある。
ドル/円も102円台で底堅さをみせている。「輸入筋やなど決済のためにドルが必要な実需筋のドル買いがみられる」(岡三オンライン証券・投資戦略部部長の武部力也氏)という。本格化する企業決算では想定為替レートを100円に設定する企業が多く、ドル/円が102円台であれば、業績上積み期待は残る。
日本の消費者物価指数(CPI)は上昇し、デフレ脱却に近づいてきた。その結果、実質金利は低下し、ビジネスには好環境だ。中小企業まで賃金上昇が広がるかはまだ微妙だが、大企業を中心に賃上げのニュースが相次いでいるのは事実だ。景気や企業業績は上向いている。ファンダメンタルズ面で失望要素は少ない。
<日本への関心薄れる>
ただ、ポジション調整の一環と喜んでばかりもいられない。ある外資系証券エコノミストによると最近、海外勢の日本に対する問い合わせがめっきり減ったという。「新興国問題でそれどころではないのだろうが、日本への関心が薄れてきたようだ。成長戦略への期待は大きく後退、日銀による早いタイミングでの追加緩和が残された期待だったが、それも大きく後退した」──。
日本の景気や企業業績も足元は好調だが、先行きには不透明感も濃い。「消費は伸びているが、増税前の駆け込みによる影響を除けば本物かどうかはわからない。輸出は相変わらず伸びていない。堅調なのは設備投資だが、輸出や消費がこの調子では厳しくなるかもしれない。消費増税を乗り切れるかはまだ不透明だ。一刻も早い成長戦略の策定などが求められる」と、シティグループ証券・チーフエコノミストの村嶋帰一氏は話している。
新興国問題の発生で、エマージングマーケットから日本への資金シフトも期待されているが、海外勢の日本への期待感が低下すれば、あっさり通過(パッシング)し、米国などに向かってしまう可能性もある。
(伊賀大記 編集:田巻一彦)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら