MMTが「就職氷河期世代」に支持される深い理由 新理論による「現実」対「虚構」の歴史的転換点

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しかも、単なる間違いではない。貨幣の理解からして間違っているというのである。

経済学とは、貨幣を使った活動についての理論だと考えられている。しかし、その「貨幣」について、主流派経済学は正しく理解していなかったというのだ。もし、そうだとしたら、主流派経済学の理論はその基盤から崩れ去り、その権威は地に堕ちるだろう。これ以上スキャンダラスなこともないではないか。

さて、その貨幣についてであるが、主流派経済学は、次のように説明してきた。

原始的な社会では、物々交換が行われていたが、そのうちに、何らかの価値をもった「商品」が、便利な交換手段(つまり貨幣)として使われるようになった。その代表的な「商品」が貴金属、特に金である。これが、貨幣の起源である。

しかし、金そのものを貨幣とすると、純度や重量など貨幣の価値の確認に手間がかかるので、政府が一定の純度と重量を持った金貨を鋳造するようになる。次の段階では、金との交換を義務付けた兌換紙幣を発行するようになる。こうして、政府発行の紙幣が標準的な貨幣となる。

最終的には、金との交換による価値の保証も不要になり、紙幣は、不換紙幣となる。それでも、交換の際に皆が受け取り続ける限り、紙幣には価値があり、貨幣としての役割を果たす(『マンキューマクロ経済学Ⅰ入門編【第3版】』110─112ページ)。

これが、主流派経済学の貨幣論、いわゆる「商品貨幣論」である。しかし、商品貨幣論が間違いであることは、歴史学・人類学・あるいは社会学における貨幣研究によって、すでに明らかにされている。また、イングランド銀行国際決済銀行も、商品貨幣論を否定している。
  
「貨幣とは何か」については、依然としてさまざまな説があるが、少なくとも、商品貨幣論のような素朴な貨幣論をいまだに信じている社会科学は、もはや主流派経済学のみなのではないか。

延命を図る主流派経済学

では、MMTの貨幣論は、どのようなものであるか。詳しくは、『MMT現代貨幣理論入門』に譲るとして、その概要だけ触れておくならば、こうである。

まず、政府は、債務などの計算尺度として通貨単位(円、ドル、ポンドなど)を法定する。

次に、国民に対して、その通貨単位で計算された納税義務を課す。

そして、政府は、通貨単位で価値を表示した「通貨」を発行し、租税の支払い手段として定める。これにより、通貨には、納税義務の解消手段としての需要が生じる。

こうして人々は、通貨に額面通りの価値を認めるようになり、その通貨を、民間取引の支払いや貯蓄などの手段としても利用するようになる。こうして、通貨が流通するようになる。

要するに、人々がお札という単なる紙切れに通貨としての価値を見出すのは、その紙切れで税金が払えるからだというのである。

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