アメリカのバブルが崩壊する瞬間が近づいた? 暴落を警告する「炭鉱のカナリア」が鳴いた

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トランプ政権はこの時代もよく研究している。そこで、重要なSEC(証券等取引監視委員会)のトップには、長年企業側の弁護士として活躍したジェイ・クレイトン氏を据えた。

個人的にはこれでSECが自ら積極的に市場の粗捜しをすることはないと感じたが、案の定、SECはオバマ政権下の2016年10月に発表した会計制度厳格化に対するフォローを中断したままだ。一方、検察方面でも、2001年、ウォール街の不正追及を断行したNY州司法長官のエリオット・スパイザーのような人もまだ登場していない。現在のNY州の司法長官は初の黒人女性だが、メディアで判る範囲では、これまではポリティカルコレクトレスでのトランプ政権の粗捜しに集中していて、証券市場には手をつけていない。

そんな今の金融市場には、米中貿易(通貨)戦争と香港情勢、そして恒例の、中央銀行関係者が一堂に会すジャクソンホール会合が迫ってきている。これらの目に見える材料に比べ、GEの話題はしばらく水面下に留まるだろう。だが、もし反トランプ勢力によってトランプ政権の地滑りが始まれば、GEに限らず、オバマ政権が緩めた会計基準の結果、不正行為にまみれたアメリカの実態が見えてくるだろう。

では誰がそんなことを望むのか。いくらでもいる。アメリカは売り専門もヘッジファンドも健在。何より、同国から国家資本主義はルール違反だと叩かれている中国には、アメリカ自身の健全性は恰好の取引材料になる。

市場は信頼を失った瞬間に崩壊する

いずれにしても、これから市場が直面するのは「どんな手段を使ってもの」副作用だろう。まずは債券バブルがどこまで膨張するか。巷で話題のMMT(現代貨幣理論)はある意味、救済策かもしれない。マネーの総量に比べ、債券の総量が足りないのだったら、債券をもっと発行すればよいという考え方だ。

今、世界の中央銀行のトップは「博士号を持った金融経済学者」の時代が終わり「弁護士」の時代が始まった。恐らくこれも好都合。ただし、主導権は社会主義を叫ぶMMT論者ではなく、これまで通り1%の金融エリートたちが支配する。

さもないと、先日のアルゼンチンの100年債のようなことが起きる。アルゼンチンのように、過去デフォルト(債務不履行)を経験した国家にも2018年までは金余り状態のマネーが殺到した。ところが選挙をめぐり社会主義の気配を感じた瞬間、100年債は急落した。

MMT論者の多くは市場力学を自分で経験していないはずだが、消費中心の経済構造では、理論ではなく金融市場が全てだ。そして市場では、直前までどれほど流動性があっても、信頼を失った瞬間に崩壊する。その意味で、GEというアメリカのシンボルに疑義が生じたことは、「炭鉱のカナリア」がついに鳴いたと考えている。

滝澤 伯文 CME・CBOTストラテジスト

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たきざわ おさふみ / Osahumi Takizawa

アメリカ・シカゴ在住。1988年日興證券入社後、1993年日興インターナショナルシカゴ、1997年日興インターナショナルNY本社勤務。その後、1999年米国CITIグループNY本社へ転籍。傘下のソロモンスミスバーニーシカゴに転勤。CBOTの会員に復帰。2002年CITI退社後、オコーナー社、FORTIS(現在のABNアムロ)、HFT最大手Knight証券を経て現在はWEDBUSH傘下で、米国の金融市場、ならびに米国の政治動向を日系大手金融機関と大手ヘッジファンドに提供。市場商品での専門は、米国債先物・オプション 米株先物 VIXなど、シカゴの先物市場商品全般。

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