アメリカのバブルが崩壊する瞬間が近づいた? 暴落を警告する「炭鉱のカナリア」が鳴いた

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筆者がアメリカに派遣された1993年は、ちょうど冷戦勝利のご褒美としてのユーフォリア(熱狂)が始まろうとしていた時だった。それでも当時は、経済は好景気と後退期が循環するのが当たり前であり、それ事態は健康体と受け入れられていた(アラン・グリーンスパンFRB議長の根拠なき熱狂発言はこの時代の象徴)だが、2008年のリーマンショック以降、アメリカのマインドは完全に変わってしまった。

すなわち、政治はちょっとの景気後退も許容できなくなり、暗黙の圧力で、打ち出の小槌のように、中央銀行にリフレ政策を要求するようになった。そして2010年、当時のベン・バーナンキFRB議長は、ニクソンショック以降もFEDが守ってきたバランスシートをGDPの6%以内に留めるという規律を破る決断をした。そしてその時使った言葉が「どんな手段を使っても」。その後、この言葉はECB(欧州中央銀行)のマリオ・ドラギ総裁や日銀の黒田東彦総裁にそっくりそのまま引き継がれた。

こうして世界の中央銀行のバランスシートはリーマンショック時と比較して4倍以上になったが、実体経済が比例していないことは、多くの人が肌で感じている。この時のFEDの政策は、金融危機を引き起こした欧米の金融機関の私的利益を、公的リスクによって清算した後始末だった(ほとんどだれも逮捕されなかった)。

「長短金利逆転は景気後退のサイン」は「的外れ」

ならばマネーをどれだけすったところで、ベロシテイー(通貨の流通速度)が上がらなければインフレにはならない。にもかかわらず、量的緩和を続けた結果、債券市場では余った流動性が世界中の長期金利を潰し、今ではマイナス金利の債券の総額は1800 兆円規模になった。

そしてこの信じられない債券バブルは、まだ十分プラスの金利があるアメリカの長期債に殺到し、ついに先週は同国の2年債と10年債の金利が逆転した。

ただし、そこで株式市場の売り材料とされた「長短金利の逆転は必ず景気後退を呼ぶ」というナラテイブ(ストーリー)は、2つの点で的外れだろう。①好景気は金融資産保有者だけの実感であり、若い世代を中心に多くはずっと取り残されていること②長期金利の低下は景気後退への防衛本能ではなく、むしろ債券市場がリスクへの防衛本能を失っている証拠ではないか。

そしてこの雰囲気のアメリカで、去る8月15日ついに、「炭鉱のカナリア」が鳴いた。

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