ELTいっくんが「仕事で平均を目指す」深いワケ

だから髪を切り、ヘビーメタルとお別れした

僕もそうだ。好きじゃないとまで言わずとも、不自由なことはいろいろある。幸い僕は目立たない暮らしができているが、芸能人などで街を普通に歩けない人なんかは、それはそれは大変だと思う。

あと、例えばタイミング。これは不自由だ。「俺、今ノってきたから、今すぐ聴きに来て! 録りに来て!」なんて言えない。ライブやレコーディングの時間に合わせて、自分のほうからコンディションを合わせるのが「仕事」だ。

にもかかわらず、ライブが始まると、そんな不自由さを忘れるから不思議。合奏の楽しさが僕の基盤なのだが、舞台に出て音が絡みあったとき、「仕事だから」という気持ちは霧消して、ただ楽しくなる。僕にとっては、好きな仕事の中の「好き」の部分をダイレクトに感じられるのが、ライブの時間なのだ。

「使いやすさ」は武器になる

レーダーチャート、という名前だっただろうか。「スタミナ」「瞬発力」「判断力」など、いくつかの評価基準を開いた傘みたいな形にして、グラフにするやつ。ギタリストとしての僕をあのチャートにすると、やはり平均的な、極端にどこかが膨らんだり凹んだりしていない形になるだろう。テクニックB、音色Bプラス、スタミナBプラス、みたいな感じ。強い個性はないけれど、求められたことはきっちりやるタイプだ。

日本ではそういう人が好まれる。「使いやすい」と言われる。使われる立場に立って考えたとき、僕のこの持ち味は武器になると思う。もちろん、時代ごとに求められるものは変わるし、個性を極めたミュージシャンも必要ではある。でも、たくさんの人に愛されるなら、あまりとがってないほうがいい。

音楽以外の部分でも、「使いやすさ」は大事だ。フリーランスの方ならきっと実感しているだろう。「次もこの人に頼みたい」と依頼主に思ってもらうにはどうするか、いろいろ考えるだろう。このとき依頼主はどこを見ているかというと、たぶんちょっとしたことだ。

連絡がつきやすいとか、メールの返信が早いとか、気が利くとか、期限に遅れないとか、小さなことでブツクサ文句を言わないとか、感じがいいとか、笑顔がさわやかとか、もういっそイケメンだとか美人だとか。テクニックや才能は、意外と優先順位低いのではないか。下手すると最後かも?

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才能あふれるアクの強い人より、気持ちよく仕事ができる人のほうが好かれるんじゃないだろうか。そんなことを意識しつつ、ELTデビュー前後の怒涛の時期に、僕は進んでコマゴマした作業を買って出た。

深夜に及ぶレコーディングで皆がフラフラになっていたので、「この中の誰が倒れても、ピンチヒッターを務められるようになっておこう」と思った。そこでスタジオに最後まで残り、音響機器や録音機材の使い方を覚えた。1人で録れるところまで録って、メモを残して帰った。懐かしい。

でも今は機材が発達して、アマチュアの人でも自宅で同じレベルの作業ができてしまうようになった。いい時代になったものだと思うけど、それはそれで「使いやすい人」になれるチャンスが減った気もする。「使いやすくて、便利」の領分は、人から機械に移りつつあるのかもしれない。

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