4分間で350本売った「チーズケーキ」の凄み 料理人のキャリア問うフレンチシェフの挑戦
食品開発のビジネスを始めたのは、シェフとして生産者のところを回るうちに、「すごくいいものを作っているのに世に知られていない人」にたくさん出会ったからだ。その食材を「消費者に知ってもらいたい」と思った。ここまでは、現代のシェフには珍しくない発想だ。しかし、田村氏はその背景にある世相にまで視野を広げる。
「いい食材を紹介しようと思っても、今の消費者は料理しないから、野菜がそのまま届いても困ってしまう。それを変えるには料理の立ち位置を変え、消費者の意識を変えることが必要。将来は、料理する人口を増やしてよい食材を求める人を増やすためのプラットフォームを作りたい」と語る。
生産者の高齢化が進んでいる今、やがて彼らが作る食材がなくなる危険性にも気がついている。その未来を変えるためには、ただ食材を届けるだけではダメだと考えているのだ。
ミレニアル世代の「共通点」
近年、生産者や食材に光を当て、貴重な食材の魅力やその歴史、伝統的な製法で食品を作り続けている生産者の思いを伝えようと試みる料理人が増えている。自分自身が「メディア」の役割を果たして、何が魅力的で何が問題なのかを発信しようと試みるシェフが大勢いる。それは、1990年代の人気テレビ番組「料理の鉄人」などにより、シェフに光が当たるようになったことが大きい。
社会的責任を自覚したシェフたちの中から、近年、田村氏のように、生産人口の減少や環境負荷などの持続可能性にまで目を配る人も出てきた。また、田村氏に限らず、1980年代以降に生まれたデジタル・ネイティブのミレニアル世代には、仕事を通じて社会貢献をしよう、と発想する人が目立つ。
インターネットなどを通じて世界とつながり、視野を広げられる今、単においしい料理を作るだけでは満足できない新しい世代が育っているのだ。
田村氏にとって、日本発のチーズケーキを世界に広めたいと考え、料理と食材の未来を育てるビジネスを構想することは、自然なことなのかもしれない。何しろ彼らが育った時代には、右肩上がりの世の中も安定した社会もなかった。そして日本は経済大国だったが、すでに陰りが見えている国でもある。変化しなければ生き残れない、と危機感を抱く人たちが、世の中の「当たり前」を変え、未来を切り開くのではないだろうか。
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