日本の農業が、世界で勝つためのヒント 強い農業

拡大
縮小

成長へのキーワードは「海外」と「連携」

農家の平均年齢が66.2歳、耕作放棄地は滋賀県の面積に匹敵する──。マクロで見れば、日本の農業の現状は厳しい。だがその一方で、横田社長のように、高い競争力を持つ農家が増えているのもまた事実だ。

安倍政権は医療や介護などと並び、農業を成長分野に位置づける。農地の規模拡大や、生産から加工、販売まで手掛ける6次産業化の推進などにより、農業所得を10年後に倍増させる青写真を描く。

農業を成長させるには何が必要か。第1のキーワードは、「海外」だ。農産物の国内市場は1990年代をピークに縮小している。一方で世界の食市場は拡大が続き、特にアジア市場は2020年までに3倍に膨らむとみられている。縮む国内市場だけでは、今後の展望は開けない。

政府も農林水産物・食品の輸出額を20年までに1兆円へ倍増させる目標を掲げる。昨13年の輸出額は東日本大震災前の10年を超え、55年の調査開始以来、過去最高となる見込み。輸出推進の旗を振るジェトロの下村聡農林水産・食品部長は「海外の展示会では日本のブースが一番人気がある。日本の食品に対する潜在的ニーズは大きい」と言う。

日本から輸出するだけでなく、アジアで現地生産に踏み出す農家も出てきた。フィリピンのルソン島北部。300ヘクタールに及ぶ農地で日本式のコメの栽培が始まった。15名の現地スタッフを率いるのは、埼玉県のコメ農家、ヤマザキライスの山崎能央社長だ。

山崎社長は就農14年。埼玉県で約70ヘクタールの田んぼを耕す。昨年法人化し、国内では事業を軌道に乗せた。次の焦点はアジアだ。

フィリピンで紹介された農地は、当初コメがまったく取れないといわれていた場所だった。だが、現場に赴いた山崎社長は、周辺の水や雑草を見て、30秒で「取れる」。問題は苗の植え方だった。東南アジアでは苗をできるだけ多く植えようとする。それに対し、日本式はある程度間引いて、苗が本来持つ、自ら伸びる力を引き出す。栽培したのは現地の品種だったが、当初思ったとおりの収穫高を確保できた。

山崎社長の元には、現地の農家から「自分の農地を耕してほしい」という要望が引きも切らない。「フィリピンでも農家は儲からないと思われている。だが日本式の技術を持ち込めば、十分にやっていける」(山崎社長)。今後軌道に乗れば、ジャポニカ米の生産を始め、上海や香港などへの輸出も視野に入れる。世界の穀倉地帯としても注目される東南アジア。ここで日本の技術を生かす余地は大きい。

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