丹羽宇一郎・地方分権改革推進委員会委員長--税源移譲は必ずやる、そうしないと分権は失敗だ 《特集・自治体荒廃》
2007年にスタートした地方分権改革推進委員会。これまで国の出先機関の統廃合、地方への義務づけ、枠付けの見直しを勧告してきた。今春には、焦点となる3次勧告を予定する。景気低迷や財政難などで地方の疲弊が限界を迎えている中で、どんな分権型社会を描くのか。丹羽宇一郎委員長(伊藤忠商事会長)に話を聞いた。
--そもそもなぜ分権が必要なのでしょうか。
近接性と補完性の二つの原理原則があります。
近接性というのは、住民により近いところで、住民自らの声を反映した行政を行うことです。これは地方政府の確立、あるいは地方自立制度の確立を意味します。
補完性は、地方にできることは全部地方でやる。地方でできないこと、国全体でやらなきゃいけないことだけを国がやる、という原則です。
分権が必要なことは、前の分権委(1995年発足)の頃からみんなわかっているんです。それでも実行できない最大の原因は、中央省庁が地方自治体を信用していないから。中央の役人は、地方に任せると、ろくなことをやらないと思っている。
でも、どこに電柱や橋があって、どこに道路が必要か、20年、30年とその地域に住んでいる地方公務員は全部わかっている。地方のおばあちゃんに本当に生活保護が必要か、霞が関にわかりますか? それなのに、現在は地方がやるべき仕事の多くを、国の指示どおりやれと地方に義務づけ・枠づけをしている。
こうした義務づけ・枠づけの撤廃を2次勧告で示しました。そのうえで具体策は、地方が条例で上書きして実現すればいい。見直しの対象は1万条項に及びます。もう一回やれと言われても、できない。これは絶対にやってもらわねばなりません。
2次勧告には国の出先機関廃止も盛り込みました。出先機関にぶら下がっている何とか協会、そこに天下りして高額年収と退職金をもらう、そういった問題も全部整理する。
でも、霞が関は全員がノーですよ。もちろん、今すぐ何万人ものクビを切るなんて、役人も生活があるのでできません。人とカネは3年ぐらいかけて少しずつ動かさなければいけない。給料が下がる分の補償や家族が移動する費用もある。だから一時的には予算が増えますよ。分権委が提言したことをやったら、一気にバラ色になるということではない。しかし、長い目で見たら確実によくなる。
--三位一体改革では、結局は歳出削減優先で終わっているのが現実です。自治体を取材すると、体力がなくてもうできませんといった声も聞こえてきます。
おカネはよこさず、仕事だけやれでは、地方は勘弁してくれと言いますよ。県や市町村は、自分でできると言うと、霞が関から嫌がらせをされる、と思っている。
だから、われわれが、第3次勧告でおカネをつける。仕事が移れば、当然おカネをつけないといけない。おカネなしでやれるわけがない。
今、実際の仕事(歳出ベース)は地方が6割、中央が4割です。一方財源は地方4中央6です。仕事が6対4なら、最終的には財源も6対4にしなければいけません。が、一足飛びにはできない。まず、5対5にするための税源の移譲を提言しています。それには約7兆円を移譲させる必要がある。
財源は、税収のアップダウンが少ない消費税を念頭に置いています。安定税収という点では固定資産課税もある。補助金は全廃し、その代わりにおカネはダイレクトに移したらいい。三位一体改革では、地方は何兆円か足元をさらわれたわけです。だけど、分権委員会は絶対にそういうことをしません。