ガラス各社は需要大幅減で設備投資削減や生産体制の再構築に迫られる《スタンダード&プアーズの業界展望》

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アナリスト 吉村真木子

 旭硝子(A/ネガティブ/A−1)、日本電気硝子(格付けなし)、日本板硝子(格付けなし)などの国内ガラス大手の収益が大幅に落ち込み、収益・キャッシュフローの減少が財務基盤にネガティブな影響を与える懸念が高まっている。スタンダード&プアーズは2月10日付けで、旭硝子の長期会社格付けのアウトルックを「安定的」から「ネガティブ」に変更した。主要事業の収益が供給先の大幅減産の影響で大幅に減少しているため、同社の財務基盤の悪化傾向が従来のスタンダード&プアーズの想定より長引く可能性があることを反映したものである。

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ディスプレー用ガラス基板事業の寡占化は依然メリットが大きい

 2008年後半からの世界的な金融危機と実体経済の悪化による薄型ディスプレー(FPD)の大幅な需要減退は、高収益だった各社のガラス基板事業を直撃している。旭硝子の2008年10−12月期の電子・ディスプレー事業の営業利益は7−9月期の328億円から117億円へ、日本電気硝子の連結営業利益も同様に306億円から111億円と急減した。

個人消費の急ブレーキに伴い、薄型テレビなど最終商品の需要が大幅に落ち込んでいるため、ガラス基板各社は、設備投資の絞りこみや事業戦略の見直しを始めた顧客の動向を慎重に見極めている。顧客の生産体制の再構築や顧客自体の淘汰が進めば、特定のガラス基板メーカーの事業基盤に大きく悪影響を与える恐れがあるからだ。需要が回復した後も、かつてほどの高成長と高利益率は確保できない可能性は強い。

しかし、スタンダード&プアーズは現時点では、ガラス基板事業のリスクが大幅に高まったり、各社の市場地位・競争力が悪化しているわけではないと考えている。ガラス基板事業では、ガラス基板市場が上位メーカーによって寡占されていることによるメリットは依然大きく、ガラス基板事業のリスクをある程度緩和すると判断しているためである。

ガラス基板は米コーニング、旭硝子、日本電気硝子の上位3社で世界市場の9割強のシェアを占める寡占状態にある。3社の設備投資に対する姿勢は保守的で、しかも比較的緩やかな競合状況、新規参入の難しさ、FPD部材の内製化や代替材へのシフトの困難さなどから、一時的な生産調整はあっても、供給過剰や稼働率の著しい低下が長期的に続く可能性は小さい。このことが各社の収益を下支えすると考えている。

ガラス事業はさらに厳しい収益状況へ

安定的な収益・キャッシュフロー創出源だったガラス事業も、建築用板ガラス、自動車用ガラスともに需要の大幅な減退に直面している。旭硝子、日本板硝子とも、同事業(日本板硝子は建築用・自動車用ガラス事業の合算)の営業損益は、2008年10−12月期に赤字に転落した。
 旭硝子では、収益を牽引してきた欧州事業の低迷、自動車販売の不振により、収益の落ち込みが激しい。低付加価値の建築用ガラス、コスト削減要求が強い自動車用ガラスを抱えるガラス事業の低い収益性は、需要の落ち込みと価格の軟化により、一段と悪化するとみられる。

建築用ガラス事業では、各社は先進国よりも、東欧・ロシア、アジアなどの新興国で需要を取り込んできた。しかし、北米での住宅投資の不振は言うまでもなく、各国の深刻な景気後退により、当面、需要が回復するとは考えにくく、欧米を中心に価格の軟化も続くだろう。自動車用ガラスの需要の低迷も続きそうだ。自動車メーカーの在庫調整に伴う大幅な減産が長引く可能性は低いと考えているものの、在庫調整が一巡した後も、各国の景気回復の足取りは重いと予想される。

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