農協がいま、投資信託の販売に本気になるわけ ベテラン証券マンと挑む一大プロジェクト

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もちろん、JAグループでこれまで、投信販売に取り組んでこなかったわけではない。1998年に投信の銀行窓販が解禁されたときも、投信販売を希望した全国200の農協と30の信連の合計230の農協でスタートした。

しかし、JAグループの貯金残高103兆円に対し、投信残高は約250億円にすぎない(いずれも今年3月末時点)。同じような店舗展開をしているゆうちょ銀行は、2018年度の1年間で8910億円の投信を販売し、今年3月末時点で2.3兆円近い純資産残高を持つ。地方までまんべんなく店舗ネットワークを張りめぐらせている点でゆうちょとJAは似ているが、投信に関して言えば大きな差がある。

悩ましい販売インセンティブの設定

農林中金JAバンクリテール実践部の水野孝昭部長は「地域銀行との競争は厳しく、これまでの地域密着、人的営業のまま、今後も選ばれ続けるのは難しい。貯金や共済はあっても、投信はほぼ実績ゼロで、100点の提案とする武器に欠けていた。10年後を見据えて、これまでの事業推進のやり方を大きく変えることにした」と今回の戦略の背景を説明する。

投信販売の体制を立て直すにあたって、商品から抜本的に見直した。株式ファンドを中心に20本程度あった商品を全面的に入れ替え、「組合員のあらゆるニーズを想定し、バランスよくそろえ直した」(水野部長)。

投信販売に本格的に取り組むうえでカギとなるのが、冒頭で触れた教育部隊だ。問題は600余りあるJAすべてに投信販売を広げるかどうか。小規模なJAしかない地域もあり、都市部の大規模JAと同じ態勢がつくれるかが課題となる。

また、各農協や販売担当者にどのようなインセンティブを設定するかも悩ましい。ゆうちょのように「(投信販売の)数値目標は張っていない」(水野部長)とするが、慈善事業ではないので、何らかの利益や営業目標は必要だろう。ただ、過大なノルマやインセンティブを設定すれば、顧客のニーズに反した投信販売を誘発しかねず、そのバランスが難しい。

水野部長は「何を原動力に、何をインセンティブに、どういう目標を置くか。昨年、一部のJAで試行してみて大きなテーマになった。JAの中で報いる世界をどうつくるか。われわれがJAの人事制度に口を出すわけにいかないので、これからの課題だ」と話す。

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