農協がいま、投資信託の販売に本気になるわけ ベテラン証券マンと挑む一大プロジェクト
このプログラムを昨年、13のJAが試行的に受け入れた。そのうちの1つが神奈川県のJA湘南だ。平塚市を含む1市2町をエリアとする同JAは、農業エリアと住宅・商業エリアが混在する典型的な都市型農協だ。管内の農家は水稲や小松菜、メロン、酪農など、多彩な農業を営んでいる。今年11月には隣接するJAいせはらと合併する予定になっている。
JA湘南豊田支所で渉外担当を務める、入所9年目の藤村遼さん(30)は今年1月から大手証券出身者を指導役に仰いだ。
「従来は目標数字もあるので、売りたい商品をどうですか、という感じだったが、資産の色分けや提案型を意識して顧客のニーズのあるものを売っていくふうに変わった」。JAで投信を扱っていることを知らない顧客も多く、顧客のところへ行って資産額を聞き出すのに苦労をしているようだ。しかし、「指導役の講師の言い回しは勉強になる」と藤村さんは感心しきりだ。
目標を大きく置くと、間違った方向へいく
JA湘南のライバルには郵便局や大手証券、地方銀行、地元信金などがひしめく。給食費の徴収を通じて学校とつながりをつくるなど、すぐ顧客のもとに顔を出せるのが強みで、「地域密着」をセールスポイントにしている。ただ、裏返すと、農協職員に県域をまたぐような転勤がなく、投信などを売って仮に顧客に損失をさせても逃げることができないことを意味する。
実は、JA湘南でも10年前から投信を取り扱っていたが、今回は高い販売目標を課すこともやめた。同JAの契約件数目標は1店舗当たり年間2件という、目標とも言えないような数値だ。
同JAの平田浩之・金融企画課長は「目標を大きくすると、間違った方向にいく。例えば、契約件数を目標に、使うあてのない寝たきりの人にクレジットカードを売り込むようなことをすると、いつかは問題になる。今回は失敗するかもしれないが、勇気をもってそうしている」と話す。
今後の課題はこうした取り組みをどこまで継続していけるかだ。同JA全体では41人の渉外担当者がいる。まずは藤村さんら8人に研修を受けてもらい、徐々に広げていく計画だ。
各地の地方銀行と同じく、高齢化する顧客の相続を機に、貯金(預金)が都会に住む相続人に流出する悩みをJAも抱えている。平田氏は「今年は投信販売の元年。農家は貯金神話が強く、急には変えられないが、今から始めておかないと。まずは足がかりの1歩目だ」と話す。
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