最賃上げても消費税廃止は低所得者を苦しめる 第4次産業革命時代における「意外な関係」

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ましてや、消費税を廃止しようものなら、この流れをむしろ加速させてしまう。というのも、雇用的自営で働く場合、業務受託収入という形で対価を受け取るため、消費税はかかるが、所得税や社会保険料は天引きされない。

他方、雇用関係を結んで働く場合、消費税はかからないが、所得税や社会保険料がかかる。

雇用的自営で働く場合、消費税が廃止されれば、その分手取りが増えるが、雇用関係を結んで働く場合は消費税がかかっていないため変わらない。となると、消費税が廃止されれば、雇用関係を結んで働くより、雇用的自営という立場で働いた方が目先の手取りが増えると考える人が増えるだろう。

消費税率が高いほど、最低賃金の実効性は高まる

その上、雇用的自営という働き方に最低賃金制度が直接的に適用されない。労働時間当たりの賃金という報酬の支払い方ではないからだ。報酬に対する交渉力がある就労者ならよいが、取引先の言いなりでしか働けない就労者だと、最低賃金を下回るような報酬しか得られないこともあるかもしれない。

今後増えているとみられる雇用的自営という働き方に、消費税が影響を与えうる。業務を外注したい企業にとって、消費税率が高いほど社外に業務委託することが割高になり、雇用関係を結んで従業員に業務を委ねた方が有利になる。雇用関係を結ぶ限り、企業は必ず従業員の労働時間管理を行うため、最低賃金制度の実効性が強まる。

一見すると、最低賃金と消費税は関係がないようだが、消費税率が高いほど、最低賃金制度の実効性が高まる。特に、第4次産業革命が進む近い将来においては、なおさらである。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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