日本の政治報道は、なぜこうも甘くなったのか 東京新聞・望月記者問題に見る報道事変

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──戦後築いてきた権力との力関係が、押し込まれて崩れている。

敗戦後、メディアとして再起を誓った原点が揺らいでいて、権力との関係性において、なぜこの慣習があり、それを破られたときにどんな弊害があるかについて無自覚になっています。官邸が強くなっていくときに、これまでの取材手法の適否、新しい情報の引き出し方などの議論が弱く、官邸に権限を与えてしまった。

それでも、小泉内閣では財政諮問会議の議事録が速やかに開示されるなど、意思決定の記録を出してきましたが、今では形骸化しています。また、野田首相はぶら下がりをやめる代わりに会見を増やしましたが、今はめっきり減っています。

現場の記者は自信を失っている

──メディアをめぐる環境の変化も複合的に関係しています。

南彰(みなみ あきら)/1979年生まれ。2002年に朝日新聞社入社。2008年から東京政治部、大阪社会部で政治取材を担当。橋下徹大阪市長(当時)とのやり取りは話題に。2018年秋から新聞労連に出向。共著に『ルポ 橋下徹』『権力の「背信」 「森友・加計学園問題」スクープの現場』など(撮影:今井康一)

昔の記者は権力と対峙していた、とされますが、その頃のメディアは情報の出口を独占していて、「怒らせたら面倒」と権力に思わせる程度の影響力があった。ところが、SNSの普及により、情報の出口の独占がなくなりました。国民は編集=改ざんと見なし不信感を募らせ、取材先からは「君たちだけを相手にする必要はなくなった」と言われ、それでも上司は「情報を取ってこい」。

かつての影響力にあぐらをかいていたのは問題だが、メディアの地位低下を無視して同じことをやれと言うのは、フェアではない。現場の記者は矛盾や悩みを抱え、自信を失っている。

──自信喪失状態?

現状について官邸記者クラブにアンケートをとると、事前に質問通告をしなかったことで怒られた記者が33人中7人とか、官房長官の夜回りの際に、録音していないことを示すためにスマホとレコーダーを長官の目の前で袋に入れるとか、以前では考えられないことが行われています。なめられている? 世間から見ればそうとしか映らない。これでは信頼されない。

──そこに望月記者が現れた。

あの会見を見たら、長官番の記者は何やっているんだ、と国民は思います。それはそうなんですが、閉塞的な状況を突破するのに、同じように振る舞って上司が理解してくれるかという不安が政治部の記者にはあるんです。会見で長官を追及したらオフレコの情報が取れなくなりました、で評価されるのか。現状を変えようとしたときに、誰が社内で味方になってくれるのか。

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