スズキ「4代目ジムニー」、発売1年後の通信簿 見えてきた顧客層の特徴と人気の理由とは

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もう1つ、筆者の周りでも、年配でマニュアルシフトのジムニーを購入、または購入検討をしている人がいる。いずれも、運転を楽しみたい思いとともに、昨今のペダル踏み間違い事故などへの懸念が、マニュアルシフトを選ばせる結果となっている。

マニュアルシフトの場合、前進と後退ではそもそもシフトすべき位置がまったく異なり、なおかつ、クラッチ操作を丁寧に行わなければエンジン停止(エンスト)を起こすので、前進にしても後退にしても発進には慎重を期すことになる。万一、逆方向へ動き出したら、ブレーキペダルを踏むだけでなくクラッチを切ればそれ以上速度を上げることはない。実際、新型ジムニーの販売の約3割はマニュアルシフトである。

速いだけがクルマの楽しみではない

運転の楽しさにおいても、単に高い速度を出せばいいとか、急加速の醍醐味を味わいたいというのとは別の味わいがある。悪路走破のためやや柔らかなサスペンション設定によって、ゆったり運転することが求められ、それでいながら1つひとつのクルマの動きを体で確かめながら、路面との対話を手応えとして実感しつつ運転するところに、クルマとの一体感を覚えさせる妙味がある。

ジムニーシエラ(撮影:尾形文繁)

そういう運転の喜びをジムニーは味わわせてくれる。それはかつて、若かりし頃に運手免許証を取得した時代のクルマの性能や運転の仕方に通じ、懐かしくもありいとおしいのである。

年齢が若くても事業で成功すれば輸入車のスポーツカーを手に入れられる時代である。一方で、環境の時代といわれる21世紀は、大きくて力強く上昇志向ではなく、身近な暮らしの中の快さを喜びにつなげることでうれしさを覚える人たちも増えている。そうした生活実感に、ジムニーは適合する側面を持つのだろう。

何百馬力ものエンジンを搭載し、太いタイヤを装着して爆走するだけがクルマの楽しみではないということに思いを寄せる人の姿が、老若男女の隔てなく、ジムニーとジムニーシエラの販売動向に重なって見える。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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