最低賃金アップで「生産性が向上する」仕組み 「正しい因果関係」をもとに建設的な議論を

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一方、最低賃金を引き上げても、生産性が向上するとは限らないという主張をいくつか目にするようになりました。彼らの主張をまとめると、生産性が高まるから賃金が上がるのであって、賃金を上げたら生産性が高まるというのは、因果関係が逆だという理屈です。

確かに、今までの通常の経済学では、それは「常識」です。しかし、今の日本は異常事態です。日本が迎える未曾有の人口減少危機に、平凡な考え方で対応できると思えません。今までにない考え方、「非常識」な考え方が必須です。人口が減少すること自体が「非常識」だからです。

強烈な金融緩和をしてもインフレにならないなど、世界各地で今までの「常識」では説明のつかない出来事が増えています。だからこそ、諸外国はすでに最低賃金と生産性の通常の因果関係を逆さまにして、挑戦をしています。成果も出て、きちんと検証もされています。

ほかにも、「最低賃金を引き上げると生産性が上がる」という考え方は、相関関係と因果関係を勘違いしているという意見も見られます。この意見に関してはきっぱりと否定しておきます。

自分で言うのもなんですが、相関関係と因果関係を盲目的に勘違いするようでは、ゴールドマン・サックスのアナリストは務まりません。もちろんトップアナリストになることは不可能ですし、私がこれまで歩んできたキャリアを達成することは絶対に無理だったことでしょう。

それはともかく、最低賃金の引き上げが生産性の向上に結び付かないという意見がよく見られるようになりましたので、改めて、なぜ最低賃金を引き上げると生産性が上がるかを考えていきたいと思います。

最低賃金引き上げは「必ず」労働生産性を高める

日本では「生産性」についての理解が確立されておらず、議論の焦点が整理されていないことが多いと感じます。さまざまな概念がごちゃまぜになっているのです。

だからまずは、生産性向上と最低賃金の因果関係を整理しましょう。極めて大切な議論ですから、衒学的に見えるかもしれませんが、しばらくお付き合いください。

厳密に言うと、最低賃金を引き上げたら、「労働生産性」は必ず上がります。必然です。これには反論の余地はありません。

なぜかというと、最低賃金で人を雇用している企業は、ボロ儲けをしているブラック企業でもないかぎり、間違いなく生産性の低い企業だからです。

最低賃金の引き上げによって、その企業が倒産すれば、すべての企業の平均である労働生産性の統計から、最も低い数値がのぞかれることになるので、当然、全体の平均は上がります。

仮に付加価値が1と3と5の企業があって、各社に労働者が1人ずついるとすると、その国の労働生産性は(1+3+5)÷3=3です。1の付加価値しかない企業が倒産すれば、労働生産性は(3+5)÷2=4となります。このように、必ず労働生産性が上がるのです。数学のマジックです。

「最低賃金を引き上げると、企業が倒産する」という反論がありますが、「企業が倒産する」としている時点で、労働生産性が上がることを認めていることになります。

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