最低賃金アップで「生産性が向上する」仕組み

「正しい因果関係」をもとに建設的な議論を

最低賃金の引き上げは、労働生産性の向上につながります。この点に関しては、議論の余地はありません。一方、国全体の生産性がどうなるかについては議論の余地がありますが、上がらないと断言するのは結論ありきの論理の飛躍です。

さて、先に紹介した反対意見では、「因果関係が逆だ」と言っていますが、これは単純すぎます。

正確には、先に述べたように「最低賃金を引き上げると、労働生産性は必ず上がるが、国全体の生産性が上がるかどうかは別問題である」というのが正しいのです。上がるシナリオも、下がるシナリオもありえます。事態はより複雑になります。

先ほどの例を使って説明しましょう。今回もまた、1と3と5の付加価値を上げている企業に、それぞれ1人ずつの社員がいると仮定します。1と3と5ですから、付加価値の合計は9です。1人当たり付加価値は9÷3で3です。

生産性1の企業が倒産し、その企業で働いていた1人が失業者になると仮定します。付加価値の合計は3+5=8に減ります。労働者の2人で割ると、労働生産性は8÷2=4に上がります。しかし、国全体の生産性は失業してしまった1人も含みますので、8÷3≒2.7まで下がります。

ここで「ほらみろ、国全体の生産性は下がるではないか」と思われたかもしれませんが、それは早計です。

国全体の生産性が下がるという結論は、あくまで倒産した企業で生産性1で働いていた人が、死ぬまで失業したままという前提を置いた場合にのみ成り立つ話です。そんなことがはたして現実的なのか、極めて疑問です。後ほどそれを説明します。

「経営の改善」を無視するべきではない

共存共栄という観点から見た理想的なケースは、1の生産性しかあげていない企業が倒産せず、融資を受け、設備投資をし、新しい商品を作ったり、新しい技術を使うなどして、付加価値を高めることです。例えば、付加価値が1から2となれば、国全体の生産性が3から(2+3+5)÷3≒3.3に上がります。

国全体の生産性を上げる理想的なケースは、生産性1の企業が買収されたり、統合されたりして、そこで働いていた人が生産性5の企業で働くようになることです。この場合、その企業は新しく増えた社員を再教育することで、それまでできなかった輸出ができるようになるかもしれません。そのように新しく入った人が5の生産を発揮すれば、全体の付加価値は3+5+5=13となって、労働生産性も、国全体の生産性も13÷3≒3.7となります。

つまり、最低賃金を上げても生産性は上がらないという主張は、労働者のスキルアップ、最先端技術の活用、輸出の拡大、人手不足がないと仮定している、ゼロサムゲームのシナリオでしかないのです。

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