最低賃金アップで「生産性が向上する」仕組み

「正しい因果関係」をもとに建設的な議論を

最低賃金の引き上げと生産性向上の因果関係が逆だという主張は、日本経済の要素がすべて不変で、経営者には対応力がまったくないと言っているのと同じです。

私は、日本の経営者の経営戦略が間違っていたことが、日本経済低迷の原因だと主張しています。しかし、生産性1の企業が倒産した場合、失業した労働者に生涯、職を与えられなかったり、「お尻に火がついた」状態に追いやられても1だった生産性を2に上げることができないほどに、日本の経営者が無能だとは思っていません。もちろん、日本人の労働者にスキルアップの可能性がないとも思えません。

最低賃金が上がっても、経営者は生産性を高められないという主張は、私以上に強烈に「日本の経営者は究極の無能だ」という主張になってしまいますが、それでよろしいのでしょうか。

この20年間、最低賃金を引き上げ続けてきたイギリスでは、政府が大学に依頼して、その結果を詳しく分析しています。最低賃金、もしくはそれに近い賃金で雇用している割合の高い企業を対象に、最低賃金の引き上げ前と後の実際の決算書を、継続的に分析しています。

その結果、最も影響を受けた企業群でも廃業率が向上することはなく、単価を引き上げることもあまりなく、雇用を減らすこともありませんでした。逆に、経営の工夫と社員のやる気向上によって、労働生産性が上がったことが確認されています。

要するに、付加価値が1の企業が2まで付加価値を上げて、対応しているのです。これは、動かざる証拠と言ってもいいでしょう。

最低賃金の引き上げと国全体の生産性向上との因果関係を否定するのは、この分析の存在を知らず、経営者・労働者の努力を見落としているのだと思います。

最低賃金の引き上げと生産性向上に関しては、海外の研究ですでに因果関係があることが徹底的に解明されています。統計を使い、大学で検証もされており、完璧な分析の結果が出されています。議論するなら、こういった科学的根拠を否定し、イギリスでできたことがなぜ日本でできないかを説明する理屈が必要となります。

私は、日本が人手不足である以上、最低賃金を上げれば労働生産性が上がるだけでなく、国全体の生産性も上がると考えています。

「最低賃金アップで生産性は上がらない」は古い考え方

海外では最低賃金を上げることによって、労働生産性が上がることも検証されていますし、さらに肝心な「失業への影響」「既存企業による付加価値向上」も確認されています。

海外の実証研究によってわかったのは、最低賃金を引き上げると国全体の生産性が上がるか上がらないかという議論を突き詰めていくと、その最大のポイントとなるのは、失業率にどのような影響が出るかということです。

新古典派のエコノミストたちは、最低賃金を引き上げていけば、その分だけ失業者が増えるという説を唱えていました。

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