「海辺の事故」がいつまでも減らない根本原因 ライフセーバーの飯沼誠司氏も警告する
ライフセービング協会によれば、溺水の自然的な要因で1番多いのは離岸流によるもので、次いで多いのは、風によるものだという。また人的要因では、泳力不足や飲酒、疲労、パニックなどが挙げられ、いずれも、海辺の知識や技術が不足していることによるものだ。
「例えば、誰かがいなくなったと連絡が入った瞬間、われわれの間には、一気に緊張が走ります。その人は海に入っていたのか、入っていなかったのか。何分くらい前に入っていたのか。最後に確認した場所はどこか。それらの情報のほかに、潮流や風の状況などを総合的に判断して、どの辺を探すかを予測するわけです」
ライフセーバーたちは、このような事故に対処するために、日々トレーニングを積んでいる。
「あくまでも一例ですが、事故を想定したシミュレーショントレーニングを行っています。ライフセーバーは目隠しした状態で、シナリオを用意し、目隠しを外してから3分以内に沖で溺れている人を救助できるかという想定をします。溺者を見つけ出して、ボードで沖に出て浜に帰ってくるだけで、4分、5分とかかってしまえば、救命率は一気に下がりますので、何が問題だったのかを振り返り、タイムを縮めるための努力をします。
また、それだけにとどまらず、1次救命処置を行った後に、2次救命である消防隊へスムーズに引き継ぎを行えるようにする必要があります。救急車が到着する前に、“傷病者記録カード”をちゃんと書いておくことができれば、消防隊はスムーズに病院に向けて出発できる。それだけで何分も縮められます」
一般的に、心肺停止の状態になった場合、3〜4分経過すると急激に救命の可能性は下がると言われている。
ライフセービング協会の統計データによれば、海水浴場で心肺停止した溺者に対してライフセーバーが救命処置を行った場合、1カ月後の生存率は59.1%と、非常に高い数値を示している。
これは、ライフセーバーによる心肺蘇生の開始時間が平均すると溺水後4.2分であり、早期発見が心肺停止した溺者の生存率を飛躍的に高めているのだという。
早期発見が人命救助につながることを知るライフセーバーたちは、1秒でも早く人命にたどり着くために、日々訓練を行い、神経を研ぎ澄ませて海辺に立っているのだ。まさに究極の1次救命と言っていいだろう。
安全対策強化へ向けた官民の連携へ
だが、本来は、1次救命処置を必要としない状態が理想なのは言うまでもない。ライフセーバーが最も大切にしていることは、事故を予防し未然に防ぐことだ。海辺の事故をなくすために、ライフセーバーたちと、海上保安庁との連携も徐々に進んでいる。
2017年3月、海上保安庁は、日本ライフセービング協会と協定を結び、事故情報の共有と、合同パトロールによる海難防止活動を行うことを発表した。
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