導入は是か非か 空港外資規制 政府内で紛糾

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導入は是か非か 空港外資規制 政府内で紛糾

空港外資規制をめぐり政府・与党内の混乱が続いている。異例の閣内不一致、自民分裂で政争に発展。消費者不在の攻防戦はいったいどこに向かおうとしているのか。
(週刊東洋経済3月1日号より)

 国土交通省が国会提出を目指す空港会社への外資規制を盛り込んだ空港整備法改正案をめぐり、政府・自民党内で調整が難航している。党内了承が3度も流れ、閣内不一致も顕在化。議論の行方は視界不良のままだ。

 「外資だけ規制するのはなぜか」。「市場原理ばかりでは成り立たない」。自民党の国土交通部会・航空対策特別委員会合同会議では、賛否両論の意見が激突。渡辺喜美金融相、大田弘子経済財政相、岸田文雄規制改革担当相の3閣僚も法案に反対表明し、2月8日に予定されていた閣議決定は大幅に持ち越された。

 外資規制は空港会社について、外資の株式保有比率を3分の1未満に抑えるもの。賛成派は「安全保障」を旗印にする一方、反対派は「政府が掲げる対日投資拡大の妨げになる」という言い分だ。

 そもそも法改正は、2009年度の株式上場を目指す成田国際空港会社の外資規制を想定していた。だが、昨秋に羽田空港施設を管理する日本空港ビルデングの株式を、豪ファンドのマッコーリー・エアポーツが20%近く保有する不測の事態が発生。危機感を抱いた国交省は、一体的な外資規制を急ぎ足に進めた。

 冬柴鐵三国交相は「諸外国の多くが空港を国有化しており、制限しない空港は大変なことになる」と訴える。実際、米国、フランス、ドイツなど大半の主要国では国や自治体が所有・管理する。外資規制のないまま民営化した空港はデンマーク、英国などごく一部。マッコーリー傘下のコペンハーゲン空港は利益最大化のためサービスが劣化したとされ、英ヒースロー空港は民営化後にスペイン企業に買収され、上場廃止に追い込まれた。

消費者不在の論争

 だが、福田康夫首相が1月にスイスで開かれたダボス会議で「市場開放努力を一層進める」と対日投資拡大を宣言したばかり。反対派急先鋒の渡辺金融相は「帰国後すぐに外資規制では、日本の方向性が疑われる。改正案には反対だ」と批判。さらに、外資規制報道に敏感に反応する空港ビル株は乱高下を繰り返した。外資規制導入が進めば、日本株離れをさらに加速しかねない懸念も浮上する。

 ただ、国交省幹部は「政策論争はほとんどない。むしろ政争の具になっている」と困惑する。自民党部会には普段顔を出さない議員が続々登場。メディアを意識したパフォーマンスや発言を繰り返す。

 特に先鋭化したのが、安倍政権時代に要職を務めた塩崎恭久元官房長官や世耕弘成元首相補佐官など元「チーム安倍」。昨年6月、国交省天下り先だった成田国際空港会社社長の座を官邸主導で押し切り、初の民間出身社長を誕生させた自負もある。党関係者は「福田政権では蚊帳の外。存在感を出すために必死」と白眼視する。渡辺金融相についても独立行政法人の民営化をめぐり冬柴国交相と激しく対立した経緯があり、「意趣返し」との声も聞こえてくる。

 国交省は道路特定財源、整備新幹線、改正建築基準法も含め「4重苦」の逆風下。外資規制を期限付き法案に“格下げ”してでも、メンツにかけて通したい考えだ。一方、反対派には事後規制型を想定する動きもある。ただ、「それでは当局の裁量余地が大きくなり、逆に規制強化につながる場合もある」(大和総研の横山淳制度調査部統括次長)との見方もある。妥協案がないまま、決着は3月までずれ込む可能性も出てきた。

 「空港の所有者は問題ではない。どのようなサービスをするかだ」。航空会社が加盟する国際航空運送協会のジョバンニ・ビジニャーニ事務総長は都内で先日会見し、消費者ありきの議論を訴えた。大きな問題だけに、メンツ先行で議論が矮小化すれば、それこそ国益を損ねかねない。
(週刊東洋経済:冨岡 耕)

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