時給「1000円ぽっち」払えない企業は潰れていい 日商「最低賃金アップ反対論」は国益に反する

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日本商工会議所は、政府は賃金に介入しないで、生産性向上を応援するべきと言います。生産性が上がれば、賃金をきちんと払うという理屈でしょう。

しかし、今までの20年間、生産性はわずかながら上がっているにもかかわらず、賃金は下がっているという厳然たる事実がありますので、日本商工会議所の理屈には信憑性がありません。政府としては経営者団体を信用するわけにはいかないのです。

国を守るために給料を増やすべきだった経営者は、その任を果たすことなく今日まで来てしまいました。彼らには、「国は介入せず、自分たちの判断に任せてほしい」などと要望する資格はまったくと言っていいほどありません。ですので、国が主導するしかないのです。

そもそも資本主義の歴史を振り返れば、労働者が社会通念上許されないほど過酷な労働条件で働かされているなら、国が主導して改善するのが当たり前です。だからこそ児童の労働は禁じられ、1日の労働時間は8時間と定められているのです。

最低賃金が1000円未満では、年間2000時間働いても年収200万円に届きません。これは日本という先進国で、日本人という優秀な労働者に対して、社会通念上許される給料水準でしょうか。私には、到底そうは思えません。日本国憲法第25条、「すべて国民は、健康で文化的な最低限の生活を営む権利を有する」に反しているとすら思います。

国民と国益を犠牲にしてでも、企業数を守るべきか

そもそも日本では、法人の数と雇用の数を混同して勘違いしていることが問題です。

私が社長を務めている小西美術工藝社も属している文化財修理の業界を例にとって考えると、なぜ日本商工会議所が最低賃金の引き上げに反対しているのか、その理由がわかります。

この業界では、現状、約30億円の売り上げを20社で取り合っています。20社あるので、当然、本社は20カ所あり、社長も20人います。

この業界に再編が起こり、例えば20社が5社に経営統合されたとします。経営統合により会社の数は減りますが、国宝や重要文化財の修理予算は減りません。修理をする会社が減ったからといって、需要自体は変わらないからです。そのため、必要とされる職人の数もほとんど変わりません。

一方、統合が進めば、企業の規模が拡大し利益が集中するので、より高度な設備投資などができますし職人の労働環境は安定します。研修もより充実させることが可能になります。過当競争が緩和され、より健全な競争が担保されるようにもなり、一人ひとりの専門性が上がって技術が上がります。いいことずくめです。

しかし、このようにいいことばかりの一方で、ある特定の人たちだけは犠牲にならなくてはいけません。社長たちです。会社の数が減るので社長のポストも当然、減らさなくてはいけません。だからなかなか再編が進まないのです。

結局、日本商工会議所が最低賃金の引き上げに反対しているのは、社長の数が減るのを恐れているからのように感じます。つまり、極論を言えば、日本商工会議所の反論は、国民と国益を犠牲にしてでも「社長の数だけは死守しろ」と主張しているだけなのです。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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