ソニーが自動車業界から人を続々引き抜く理由 10年後を見据える「仕込み作業」の実態

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人材獲得に力を入れるのは、中途採用だけではない。今年ソニーは、新入社員の給与体系を改定し、AI開発ができるエンジニアなど一部の優秀な人材を中心に、1年目の年収を最高で730万円と、従来から3割程度引き上げることにした。従来は、入社2年目の7月までは人事評価で一律に「等級なし」をつけていたところを、1年目の7月段階で、主任、上級担当者に与えられる全5等級のうち、上から2番目の「4」の等級をつけることが可能になる。

採用コンサルタントの谷出正直氏はソニーのこの動きについて「現在、AIなどのデータサイエンス領域は国際的に見て圧倒的な売り手市場。日本国内でも高度な専門性やスキルを身につけた一部の学生は、大学卒業後、アメリカのグーグルなど海外IT企業にそのまま就職することも増えている。こうした層に振り向いてもらいたいというのがソニーの狙いだろう。もっとも、いきなり年収2000万円台も夢ではない米国IT企業に比べると給与格差はまだ大きい」と分析する。

グローバル採用も強化する。コンピュータサイエンスのトップ校である、アメリカのカーネギーメロン大学やインド工科大学、中国の北京大学、清華大学などに狙いを定め「今後ソニーが技術的な競争力を維持するうえで、GAFAなども含めた国際的な人材獲得競争に対して危機感をもって対応していきたい」(ソニー)。

採用した人材は研究開発にも振り向け

将来に向けた「仕込み」を重視するという現在の経営姿勢を明確に反映しているのは、事業に必ずしも直結しないR&D(研究開発)領域での新卒採用を強化していること。2020年度入社の新卒採用では、R&D人材の数を前年度と比べて2割増やす予定だとしている。

2018年7月に立ち上げ、中長期的な技術開発を担うR&Dセンターでは、エンジニアが自由に実機まで開発できる環境も整えた。「こうした『雇用特区』的な取り組みは最近ほかの大手家電メーカーなども始めている。5~10年後における事業の柱を作っていくためには、多くの企業が導入すべき取り組みだ」と、リクルートキャリアHR統括編集長の藤井薫氏は指摘する。ソニーで人事部門を担当する安部和志執行役常務は2月に行われた採用戦略説明会の場で、「自分の専門分野に限らず、さまざまなことに好奇心を持つやんちゃなエンジニアが欲しい」と語った。

競争力のある領域で優秀な人材をどれほど獲得できるか。10年後のソニーが成長し続けられるかどうかは、ここにかかっている。

『週刊東洋経済』7月6日号(7月1日発売号)の特集は「ソニーに学べ」です。
印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界、総合電機業界などの担当記者、「東洋経済オンライン」編集部などを経て、現在は『週刊東洋経済』の巻頭特集を担当。過去に手がけた特集に「半導体 止まらぬ熱狂」「女性を伸ばす会社 潰す会社」「製薬 サバイバル」などがある。私生活では平安時代の歴史が好き。1児の親。

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