ソニーが自動車業界から人を続々引き抜く理由 10年後を見据える「仕込み作業」の実態

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2019年度中にも量産出荷されるソニーの車載半導体、「IMX324」は、アメリカのインテル傘下であるモービルアイの画像処理半導体に接続する(写真:ソニー提供)

2015年から専門部署が発足したという新しい事業であるため、ソニーの車載センサーのシェアは5%ほどとまだ低いが、品質面では夜間や逆光下などでも高画質の映像を撮影できる点で評価は高い。5割超のシェアを占めるアメリカのオン・セミコンダクターから「当社の最大のライバルはソニー」(同社副社長のデビッド・ソモ氏)と恐れられる存在だ。ソニーはすでにトヨタの高級車レクサス「LS」や、普及価格帯のクラウン、カローラ向けなどをデンソーに出荷しているほか、独ボッシュなどとも取引が始まっている。

ただ、ティア1以上のセンサーの技術を持つソニーも、自動車業界特有の、すりあわせ型開発や、温度や振動への耐性など、厳しい品質水準への対応は十分ではない。だからこそノウハウを吸収すべく、自動車業界出身の人材の獲得が必要なのだ。

ルネサスの車載半導体トップが電撃移籍

昨年9月には、ルネサスエレクトロニクスで車載半導体部門トップだった大村隆司氏が同社退社直後にソニーに移籍するという電撃人事もあった。ソニーでの役職は、半導体事業トップの清水照士に次ぐナンバー2、常務補佐(現半導体子会社副社長)だ。この移籍は、「大村氏がルネサスを辞めることがわかって数日での出来事。しかも、この引き抜きを知っていたのは、吉田社長、清水氏、(JPモルガン出身で半導体事業の財務企画を務める)染宮秀樹氏くらい。ソニーが車載向けにかける本気度が伝わってくる」(人材業界関係者)。

大村氏に引っ張られる形で、ルネサスで車載事業のCTO(最高技術責任者)室技師長を務め、大村氏の信頼が厚い板垣克彦氏もソニーへ移籍。彼らが持つ自動車業界の人脈を使って、マネジメント層の移籍も増えている。

ソニーが2018年に発表した同社の自動運転用ソリューションのコンセプト「セーフティコクーン」。自動車の周囲360度をセンサーで検知することで、早期に危険回避の準備を可能にする(記者撮影)

半導体事業部門には、7月1日に「システムソリューション事業部」という新部署もできた。半導体事業において実質的に経営戦略のトップを務める、前出の染宮氏が事業部長に就き、これまでスマホ向け、車載向けなどに分散していたソリューション領域の企画開発を統合、センサーにAIを実装することで、収集したデータを活用するなど、一部品の販売に留まらない展開を目論んでいる。

同部署では「車の『目』だけでなく、現在、アメリカのエヌビディアなどが手がける自動運転車において、人間の「脳」のような推論機能を担う部分へ入るための準備も着々と進めている」(ソニー関係者)という。大規模な事業買収こそない半導体事業だが、中途採用で新しい血を入れることで、着実に新領域への進出を進めているのだ。

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