松井稼頭央の「天国と地獄」を支えた妻の献身 メジャーリーガーの妻としての壮絶な日々

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好待遇は年俸だけではない。出迎えもすさまじかった。稼頭央が空港に降り立った瞬間、まぶしい光に襲われた。詰めかけた報道陣が一斉にフラッシュをたいたのだ。

球団は稼頭央のためにリムジンを用意。大勢の警官がガードして、ホテルまでパトカーが先導するなど、スーパースターのような扱いだった。その後の入団会見では、全米の報道陣が殺到。それらすべてが、稼頭央への期待の大きさを物語っていた。

いっぽうで、美緒さんは夫が期待されることに、驚きとプレッシャーを感じていた。

「歓迎ぶりがすごすぎて。まるでハリウッドスターみたい。これはちょっと大変なことになっているなと思いました」

3歳の娘を連れて渡米した美緒さんの予想は、奇しくも的中してしまうことになる。

2人を待ち受けていた「天国」と「地獄」

ニューヨーカーたちの大きな期待を一身に背負いながら、稼頭央はアトランタ・ブレーブスとの開幕戦の舞台に立った。1番打者に抜擢された稼頭央がファンの心を鷲掴みにするのに、そう時間はかからなかった。

初回に迎えたメジャー初打席。相手投手は前年度21勝を挙げたラス・オルティス。稼頭央は積極的に初球から振り抜いた。快音を残し、打球はセンターのフェンスを越えた。メジャー史上初となる、新人の開幕戦初打席初球本塁打だった。

スタジアムに詰めかけたファンのボルテージは最高潮に達した。しかし、そんなファンたちをしのぐほどに喜びを爆発させた人物がいる。

「すごい! 宝物だね!」

美緒さんだった。試合後、稼頭央に手渡されたホームランボールは、今でも色あせない思い出の品だ。

鳴り物入りでメジャーへ移籍した稼頭央と、メジャーリーガーの妻となった美緒さん。それだけを聞くと、羨ましい思いに駆られてしまう。

しかし、彼らはすぐに「地獄」を目の当たりにする。幸せの絶頂だった開幕戦からわずか2カ月後のことだった。

稼頭央は極度の不振に陥っていた。チャンスの場面ではことごとく三振を喫し、守備では失点につながるエラーを連発。3拍子揃った遊撃手の姿は、そこにはなかった。

シーズンを通して見れば、稼頭央の成績は極端に悪いものではない。とはいえ、打率.272は、7年連続で3割超えを記録した稼頭央には物足りないし、失策23が悪目立ちしている。

いや、もはや数字は関係なかったのだろう。高額年俸で迎えられ、過度の期待を受けてしまった稼頭央が、ファンを納得させる結果を残すことは容易ではなかった。

稼頭央には容赦ないブーイングが浴びせられた。世界一熱狂的といわれるメッツファンによる激しいブーイングは“スタジアムの名物”と呼ばれるほどになった。

筋金入りのメッツファンである、当時実業家だったドナルド・トランプ氏(現アメリカ大統領)も黙ってはいなかった。出演したテレビ番組で次のように言ったという。

「今一番クビにしたいのは、マツイだ!」

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