『巨大銀行の消滅』を書いた元日本長期信用銀行頭取・鈴木恒男氏に聞く
--長銀には債務超過が取りざたされていました。
その点はマスメディアの影響は大きい。私自身、「明日の朝刊1面にトップ記事で掲載しますから、『そうでない証拠を出してください』」と、夜討ち取材を受けたこともある。実際は掲載されなかったが、その報道合戦の前後で、民主党の代表の姿勢が一転硬化したのを記憶している。月刊誌に「破綻」の文字が躍ったのも、内容に新しさはなかったがインパクトを与えた。
--株価が先行して下落しています。
外資やヘッジファンドの空売りに直撃を受けた。株価から先に信用を失っていった。行政の敷いたレールに乗ってきたはずが、予期せぬ路線の切り替えによって、一瞬のうちにレールの途切れに遭遇した。
--それにしても、8年半の裁判期間は長くありませんか。
民事は本人が出廷しないでいい。1回期日に開催すれば陳述したと見なされる。ただ、その準備書面のやり取りがものすごい数だ。私が原案をつくって弁護士に説明して、弁護士にまずそれを理解してもらう。法律的な観点で論理を組み立て直し表現を変える。何回も手直しが必要だ。それを何回も繰り返す。
裁判所が原告と同じように、理解して判断するのにも時間がかかる。相手は事実上、国だが、物量豊富で、たくさんの弁護士を抱えて分厚い書面をつくってくる。一つずつ反論しながらこちらの主張をぶつけていく。裁判所にとっても、次回期日をひと月先、ふた月先と設定する余裕が必要だろう。論点も多いから。8年半は、やむをえない時間だった。
--本書が論理的な組み立てがしっかりしているのは、そういうたび重なる準備書面の推敲という背景があるわけですね。
民事訴訟は12件あって、刑事事件としては大野木克信元頭取ら3人が起訴された。争点は粉飾決算や違法配当をしたかどうかだった。地裁の刑事判決では有罪、その後の地裁民事ではこちらの勝訴となった。高裁は地裁以上に検察に近い判断をする。それは法曹界ではみな知っている。最高裁までいかないと刑事では勝てないと思った。
最高裁だけは判例としての判決に重きを置く。商法の解釈の判例になるのも確かだった。いまは経済裁判の過渡期、検察も試行錯誤だ。今回の訴訟では、制度が切り替わっても法律でないものが強制力を持つことが問われたが、純粋な商法の法律解釈からしても無理があった。
(聞き手・塚田紀史 撮影:今井康一 =週刊東洋経済))
すずき・つねお
会社顧問。1942年宮城県生まれ。東北大学経済学部卒、日本長期信用銀行に入行。取締役事業推進部長(新設された不良債権処理専担本部の初代部長)、同営業企画部長(国内融資業務の統括)、常務、副頭取・頭取代行を経て、98年9月頭取。長銀の国有化(特別公的管理)に伴い同年11月解任。
東洋経済新報社 1995円
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