プーチンの北極圏開発に日本が参加する意義 中国の北極への野望をめぐる微妙な駆け引き

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ヤマルLNGプロジェクトのガス採掘サイト(2018年8月筆者撮影)

日本はこれまでLNG輸入で天然ガス需要の全部を賄ってきた。国内にLNGを受け入れるインフラはすでに整っている。その世界最大のLNG輸入国としての強みを活かして、アメリカ、ロシア、そして中東のLNG権益をバランスよく確保しておきたい狙いがある。

アークティック2の10%の権益を獲得すれば、10%のガスを受け取る権利が生じる。ヤマル1も同様だが、アークティック2の強みはガスの生産コストがべらぼうに安いことだ。カタール並みといわれている。さらに極地でのLNGは運転コストが中東などよりも安い。摂氏30度のところよりも氷点下の極地で冷やしたほうが熱効率は良いのだ。

長期契約中心のこれまでのLNGとは異なり、短期あるいはスポット中心の販売を見込んでいる。北極海航路が順調に運航できるかどうかが、そのカギとなる。順調にいけば北極海のLNGがスポット中心の新たなLNG市場の先導役となるかもしれない。

日本が参加することには、LNGをパイロットプロジェクトとして具体化される北極海航路を中国の独占物にはさせたくない、というロシア側の思惑がある。日本としては中国とも協力しつつ、今後天然ガス需要が増える東南アジア、そしてインドを見据えて、北極海航路とインド太平洋を結節する主体となりたい。その第1歩としてアークティック2の10%の権益がある。

注目すべきは政府系のJOGMECが深くコミットしていることである。日本の国益にとって重要なプロジェクトという位置づけであり、2016年のJOGMEC法の改正を受けて、今後ㇳタールと同様にノバテク本体の資本を取得する方向に動くかもしれない。そうなれば日本の存在感はさらに強まるだろう。

ノバテク大株主はプーチンと個人的つながりを持つ

ロシアの北極海政策の肝となるプロジェクトで、プーチン個人の強い関与もうかがわせるのはノバテクの大株主ゲンナジー・チムチェンコの存在である。ノバテクの最大の株主はCEOのレオニード・ミヘルソンでおよそ28%、次の大株主は取締役会のメンバーであるチムチェンコで、およそ23%を所有している。

ミヘルソンはもともとガスパイプライン建設の技術者で1990年代のノバテク創設に関わり、ノバテクをガスプロムに次ぐロシアのガス会社に育て上げた有能な技術者兼経営者だ。しかしプーチンとの個人的なつながりは薄い。それに対してチムチェンコは原油のトレーダーで、ロシアの原油輸出の3分の1は彼の会社を通じて輸出されると言われる。そして、プーチンと極めて近いことで知られている。

もともとパイプライン中心のガス会社だったノバテクをヤマルLNGに引き込んだのはチムチェンコである。チムチェンコはまず、ヤマルのLNGライセンスを取得してそれをノバテクに売却し、次にノバテク本体の株式を購入した。いわばスワップ取引の形だが、ノバテクはヤマルLNGの主体となり、チムチェンコは大株主としてノバテクの経営に参画することになった。2008年のことである。プーチンがチムチェンコを通じて、ヤマルLNGプロジェクトを有能なマネージャーであるミヘルソンに任せたともいえるだろう。

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