プーチンの北極圏開発に日本が参加する意義 中国の北極への野望をめぐる微妙な駆け引き

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ヤマル半島のサベッタ港に接舷するLNGタンカー(2018年7月筆者撮影)

連携を強めるロシアと中国。しかし微妙な戦略のズレも見える。ロシアはユーラシア、すなわち旧ソビエトの統合を唱え、北極海航路もその枠の中で自らの影響圏の中に押さえておきたいと考えている。中国の一帯一路と氷のシルクロードはそうしたロシアの思惑そのものを飲み込む可能性がある。中国は「ロシアのユーラシアの統合と一帯一路は統合(integrate)される」という。これに対してロシアは「ユーラシアの統合と一帯一路は共存(coexistence)する」としている。

北極海航路への日本の参画はロシアにとって中国とのバランスを取るという意味でも重要であり、また日本を通じて東南アジアやインドへの販路拡大という可能性も広がる。

実はアークティック2にはサウジアラビアのアラムコも参入に向けて交渉を進めていた。サウジアラビアも20%以上の権益を求めていたといわれるが、結果的にはロシアはサウジアラビアよりも中国を選択した形となった。ロシアとしては、おそらくアメリカとの対立が深まる中で、中国との関係を重視するとともにLNGの安定した売却先という面から中国を選択したのだろう。

しかし今は交渉を中断しているが、今後、サウジアラビアの参画も再浮上してくるかもしれない。ロシア北極海と中東はヨーロッパとアジア市場において競合相手ではあるが、相互乗り入れすれば、競合が相互補完関係に変わるかもしれない。

北極海航路と北米航路の結節点になる北方4島

アークティックLNG2への日本の参画は北方領土問題、日ロの平和条約交渉にはどのような影響を与えるだろうか。直接には絡めるべきではないというのが私の考えだ。ロシアのエネルギープロジェクトへの日本資本の参画は、エネルギー安全保障の観点と経済合理性の観点から判断すべきだろう。中東情勢が不安定化する中で、ロシアが安定したエネルギー供給を続けることはエネルギー消費国の日本の利益となる。

経済合理性を見極めることは重要だが、プーチンプロジェクトゆえの利益とプーチンプロジェクトゆえのリスクをどう判断するのか。経済合理性だけでは詰め切れない部分を政治が後押しする。そこにはエネルギーにおける日ロの戦略的な補完関係を強化することで領土交渉の環境を整えたいという思惑があるかもしれない。

また、ヤマルへの参画は直接は領土交渉には結びつかないが、北極海航路のパイロットプロジェクトという面で、北方4島と北海道東部の将来像に大きな意味を持つかもしれない。この島々は、北極海航路の中継基地として最適の位置にあるとともに、アメリカと結ぶ北米航路の最短距離の地点にある。つまり北極海航路と北米航路が結びつく結節点にもなりうる。

日ロの地政学的な共通利益を深め、日ロの将来像を描く中で、領土問題を解決に導こうという新しいアプローチにおいて、4島と北海道東部に北極海や北米大陸から来るLNGの積み替えや貯蔵の基地を作るという構想が生まれてくるかもしれない。アークティック2LNGへの参画はそうした日ロの将来に向けた一歩となる可能性がある。日本も参画した北極海をめぐる資源開発ゲームはまだ始まったばかりだ。世界のエネルギー地図をどのように変えていくのだろうか。

石川 一洋 ジャーナリスト

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いしかわ いちよう / Ichiyo Ishikawa

NHK解説委員。近畿大学客員教授および総長特別補佐。1982年東京大学文学部ロシア語ロシア文学科卒。同年NHK入局。秋田、青森の放送局を経て、1988年報道局取材センター国際部記者。1992~96年モスクワ支局、96年から国際部デスク。1999年のキルギス日本人拉致事件や2001年の911同時多発テロ以降のアフガン北部タジク取材などを指揮。2002~07年モスクワ支局長。2007年NHK解説委員、2010年NHK解説主幹。2017年NHK退職後も解説委員として「時論公論」、「おはよう日本・ここに注目」「キャッチ!世界のトップニュース」に出演中。ロシア・旧ソビエト連邦、安全保障などの専門家として講演多数。東京大学EMP講師、サンクトペテルブルク経済フォーラムやウラジオストク東方フォーラム等のモデレーターも務める。

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