引きこもりを過剰に警戒する人の大いなる誤解 心の特性は暴力や争いとは本来程遠いタイプ

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一般的に、最後の拠り所である居場所に待避している当事者が、理由もなく外に飛び出して行って、無関係な人に危害を加えることは考えにくく、事件とは程遠い存在なのだ。

しかし、不安をあおられた家族からは「どうしたらいいのか?」といった相談の電話が、家族会にひっきりなしにかかってくる。しかも、相談してくるのは、家族会の会員ではない。これまで誰にも相談できずに孤立していて、突き動かされるように初めて受話器を取ったような人がほとんどではないかと感じられる。

一方で、家族会の会員たちは、事件の報道を見ても、比較的落ち着いて受け止められている様子だ。これは、同じような悩みを抱える家族同士、横でつながって情報を共有できているかどうかの違いなのではないか。

すべての人が家庭内暴力を起こすわけではない

引きこもらざるをえなかった人たちの背景や状況は、実に多様で1人ひとり違っている。ただ、心優しくてまじめである傾向は、前述したようにほぼ共通している。

親の期待がわかっているがゆえに、その期待に応えられない自分が情けないし、親にも申し訳ないと思っている。そんな後ろめたさから、ますます身動きが取れなくなっているところに、今回の事件が起きた。

引きこもりがちな長男を殺害した元事務次官の事件では、両親に対する家庭内暴力が背景にあったという。事件以降、一部のメディアからは「どうして引きこもりの人は暴力を振るうのか?」と暴力を振るうことが前提の質問を受け、「引きこもる心の特性の人は本来、暴力や争いとは程遠いタイプ」と説明しても、ストーリーありきの「引きこもり」と「暴力」のメカニズムを執拗に聞きたがり、辟易した。

しかし、引きこもり状態にある人すべてが、家庭内暴力を起こすわけではない。

その割合については、2017年度、KHJ家族会の副代表でもある境泉洋宮崎大学教育学部准教授が調査した貴重なデータが報告されている。それによると、現在、家庭内暴力があると答えた家族は544人のうち18人で、3.3%。過去に受けたことがある家族も含めると、123人で22.6%だった。

では、なぜ親子で会話やコミュニケーションができなくなるのか。

親としては「いつまでこんなことしてるんだ」と、どうしても子の引きこもる行為を否定しがちで、働かないことを責めたがる。でも、子の側からすれば、それは自分自身が痛いほどわかっていることであり、最も言われたくない言葉でもある。「働け」などの言葉を言わずに、心の中に押しとどめて、そっと応援していることが伝わるような関係をつくることが大事だ。

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