日経平均2万3000円回復の可能性が出てきた 今のFRBの動きは1998年に酷似している?

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FRBが利上げを停止しただけでなく、利下げの判断を迫られる状況に追い込まれている流れの中で、ECB(欧州中央銀行)は6日の理事会において、2020年前半まで政策金利を現状の水準に据え置くことを決めています。米中貿易戦争が悪化の一途をたどり、2019年後半に景気が力強く回復するというシナリオは見通せなくなったからです。

ECBが同日に公表した四半期に一度の「経済・物価の見通し」では、2020~2021年が下方修正され、経済が力強さを欠く状況が長期化すると予測されています。

ECBは2018年末に量的緩和を打ち切り、早ければ2019年秋以降に利上げの再開を目指していました。それが実際には、3月に導入を決めた銀行への長期資金供給策では、マイナス金利でも資金を貸し出すことを認めています。

これは、実質的な緩和策といわざるをえません。ドラギ総裁は「不測の事態には行動し、あらゆる措置を取る準備ができている」と強調していることから、むしろ今後は利上げより量的緩和の再開やマイナス金利の拡大といった選択肢が浮上しているわけです。

米欧以外の中央銀行でも、米中貿易戦争による景気減速に対応するため、金融緩和の方向に舵を切り始めています。ドナルド・トランプ大統領が5月5日に対中関税の引き上げを表明して以降、7日にマレーシアの中央銀行が利下げを決めたのを皮切りに、8日にニュージーランド、9日にフィリピン、6月4日にオーストラリア、6日にインドが相次いで利下げを決めているのです。

FRBが利上げを停止しただけで、各国の中央銀行では政策の自由度が高まり、主要先進国以外では利下げが相次いでいます。今までは主要先進国以外の中央銀行は自国の通貨安を恐れるあまり、利下げの判断がなかなかできなかったわけですが、FRBがさらに踏み込んで利下げに転じれば、主要先進国の中央銀行も金融緩和の拡大を推し進めやすくなります。

ECBは実質的には3月に緩和の方向に転換していますし、日銀が追加緩和に追い込まれるのも時間の問題であるように思われます。

FRBが年内利下げなら、1998年に酷似する動きに?

FRBが2019年内に利下げに転じるとすれば、それは1998年に大手ヘッジファンドLTCMの破綻に対応する形で行われた利下げの時と状況が似ています。

当時を簡潔に振り返ると、1997年のアジア通貨危機の余波がタイムラグを置いてアメリカに到達し、1998年の7~8月にはS&P500は20%近く下落、9月にはLTCMが破綻します。FRBはその直後に景気拡大期にあったにもかかわらず政策を転換し、9~11月にかけて0.5%の利下げを断行しています。その結果、景気と株価はすぐに持ち直し、S&P500は11月に高値を更新、その後にITバブルへと突き進んでいくことになります。

クラリダ副議長は当時のFRBの対応を「保険としての利下げ」と評価していて、今回想定される景気減速時の対応策として考えているようです。景気拡大期であるにもかかわらず、FRBの利下げが強く意識されている現状では、当時と今回の状況を比較分析するのは1つの指針になるのではないかと考えるのは、妥当なように思われます。

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