「自炊塾」、九州大の人気講義は何がスゴいのか 単位をとるのが難しくても学生が集まる理由

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料理研究家の北川みどりさんが、みそを使って簡単に作れる麻婆豆腐・肉みそおにぎり・バーニャカウダを調理。和やかな雰囲気で、学生は活発に質問していた(筆者撮影)

受講生は毎年男女半々くらいで、学部による偏りはなく、全学部から参加しているという。

もともと料理好きな人もいるが、大半は「初心者だけど自炊を身に付けたい」という学生たちだ。

今年度の授業内容は「私たちはどれくらい正確に味を判断できるのか(実験)」「どんな調味料を選べばいいのか」「1日いくらの食費で暮らせるのか」「おいしいコーヒーの飲み方」「フレンチシェフによる魚食のススメ」など、バラエティー豊かなテーマが並ぶ。

いちばん大事なのは”考えるな、感じろ!”

5月某日のテーマは「だし」。大学寮の1室に集まった学生たちは、だしの味わいを比べたり、比良松さんから「そもそもだしって何だと思う?」と問いかけられたり。

「一般的な食育では“だしは体にいい”とアピールされますが、それでは行動に結びつかない。僕がいちばん大切にしているのは、ブルース・リーの映画に出てくるあのセリフ……“考えるな、感じろ!”(笑)。五感をフルに使って感じて、そこから湧いてくる疑問について考え、自分で料理したくなるという流れです」

先ほどの「だしって何?」という問いかけに対して、学生は自分なりに考えを巡らせ、比良松さんはどんな意見も否定せず受け止めた。そして「僕はこう思う」と前置きしたうえで、モンゴルでの体験談を話した。「こうあるべき、こうするべきという話はしません。だしの定義は人それぞれでいい。自分の納得するものを見つけて、自分で価値観を作っていけばいいと思うんです」

続いて夕方から始まった課外授業では、料理研究家の北川みどりさんを講師に迎え、まずはみそ5種の味わいを比べた。「しょっぱい」「干しぶどうみたい」、同じみそでも味の表現は人それぞれ。「手作りのみそは菌が生きているから味が変化します。

みそ5種は、皿の右上から時計回りに古くなる(2019年から2013年に作ったものまで)。「市販のみそは高温にして菌の働きを止めているから、発酵が進まないんですよ」と北川さん(筆者撮影)

5種は同じ材料・方法で作ったけど、発酵の長さが違うんですよ」と北川さんが話すと、学生たちは驚いた表情を見せた。

次に、みんなで大豆と麹を混ぜてみそ作りをした後、北川さんがみそを使った3種のメニューを調理。学生自身は調理せず、北川さんの手元を見ながら説明に耳を傾けた。

比良松さんはこの過程こそ大切と語る。「料理はスポーツと一緒で、知識だけでなく体感したことをベースに上達します。プロが調理する姿をしっかり見て、せん切りはこうだ、ここで味見するんだと言葉にできない暗黙知を身に付け、あとは自分でマネしてほしい」

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