ドイツ政権崩壊へのカウントダウンが始まった 連立のSPD党首辞任、次期首相候補も脱落か

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クランプ=カレンバウアー氏の後継指名をメルケル首相は断念、と伝えられる(写真:REUTERS/Fabrizio Bensch)

SPDにとって連立解消は難しい決断となる。連立解消で早期の解散・総選挙となれば、議席を大幅に減らし、緑の党に左派第1党の座を奪われるのは必至だ。だが、このまま連立にとどまれば、党の一段の埋没は避けられない。党勢立て直しを目指してSPDが連立を解消し、年内か来年初にも議会の前倒し解散・総選挙が行われる可能性が高まっている。

連立解消時も連邦議会の過半数を確保できる連立の組み換えが可能であれば、解散は回避できる。極端な政策を主張するAfDと左翼党が連立に加わる可能性がないとすれば、現在の議会構成で過半数を確保できる組み合わせは、CDU/CSU、リベラル系政党の自由民主党(FDP)、緑の党によるジャマイカ連立(3党のイメージカラーの色がジャマイカの国旗の配色に似ていることから一般にこう呼ばれる)以外にはない。

しかし、この組み合わせは2017年の連邦議会選挙後に検討されたが、自由民主党の党利党略により交渉が決裂した。しかも、緑の党の支持率は選挙後に2倍から3倍に跳ね上がっており、同党としては選挙を行わずに政権に加わるメリットは乏しい。また、議会の機能不全がナチスの台頭を招いた反省から、ドイツでは政治安定を重視する。議会の過半数を持たないCDU/CSUが非多数派政権を発足させる可能性は低い。連立解消=前倒し選挙とみてよいだろう。

メルケル首相は過去に次の連邦議会選挙には首相候補として選挙に出るつもりがないと発言していた。連立解消となった場合、メルケル首相の退任時期が早まる恐れがある。

次期首相の人選は白紙、政権も不安定に

前倒し選挙後の政権発足の行方は不透明だ。各種の世論調査によれば、次の連邦議会選挙で議席獲得に必要な5%以上の票を獲得しそうなのは、CDU/CSU、SPD、緑の党、AfD、自由民主党、左翼党の6党(正確には7党6会派)とみられる。

大連立の再結成がないとすれば、政権発足の可能性がある組み合わせは、①CDU/CSUと緑の党との連立、②緑の党のプレゼンスが高まった形でのジャマイカ連立、③緑の党、SPD、左翼党による左派連立、の3つといったところだろう。自由民主党と緑の党との政策調整は難航が予想され、①で議会の過半数を確保できるのであれば、②は選択肢から除外されよう。左派系政党がCDU/CSUから一段と支持を奪わないかぎり、③で過半数に届く可能性は低い。

CDU/CSUと緑の党の連立は、地方議会レベルでは前例がある。市町村レベルでは1990年代後半から断続的に、州レベルでは2008年の自由ハンザ都市ハンブルク(州)を皮切りに、2014年にヘッセン州、2018年にバーデン=ヴュルテンベルク州で政権が発足し、州議会を運営してきた。ヘッセン州では2018年の州議会選挙後も連立が継続した一方、ハンブルクではわずか2年で連立が解消した。いずれにせよ、次期首相の人選とともに、政権の安定性にも不安が残ることになる。

田中 理 第一生命経済研究所 首席エコノミスト

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たなか おさむ / Osamu Tanaka

慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニア大学修士(経済学・統計学)。日本総合研究所、日本経済研究センター、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)にて日、米、欧の経済分析を担当。2009年11月から第一生命経済研究所にて主に欧州経済を担当。

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