上野千鶴子「私が東大祝辞で伝えたかったこと」 MeTooと東京医科大問題で世論は耕された
被害者が自分の被害を告発するのは容易なことではありませんが、受忍することで被害者も加害の構造の加担者になることもあります。だから今回、年長世代の女性からセクハラを告発した女性に対する謝罪が見られたことは、大きな変化でした。
日本型経営は間接差別の温床になっている
宮仕えのつらさは自分より無能で横暴な上司に仕えるつらさ。それを「パワハラ」と表現できるようになったことは一歩前進ですが。
『身の下相談にお答えします』
――#MeTooと並んで日本社会のジェンダー問題に対する受け止め方を変えた事件として、東京医科大の入試における性差別を挙げています。
上野:これは言い訳無用の女性差別でしたね。入試という公平なはずの制度を差別的に運用する実態が明らかになりました。文部科学省も無視できなくなりましたし、社会に対するインパクトは大きかったと思います。だから東大の祝辞でも、この問題を取り上げました。
社会がこれだけショックを受けたというのに、この性差別入試に対する医療業界の反応は冷ややかでしたね。「必要悪」という反応がもっぱらでした。女性医師の側からも「男性医師たちのおかげで自分たち女性もサポートしてもらって感謝している」と、男性医師を「立てる」ような発言がありました。これが女性医師たちの生存戦略なのかと、胸が痛みました。
――医療業界の特殊な環境が問題ということでしょうか。
上野:いいえ。問題は医療業界に限らないはずですよ。ほかの職場でも同じことが起きているでしょう。ただ医師の職業が極端な長時間労働であるせいで、問題がクリアに見えるのでしょう。
病院に限らず、日本型経営は間接差別の温床になっています。長く同じ組織で働いている人、長時間労働している人だけを「正規メンバー」として認める仕組みだからです。そこでは育児や介護といったケア労働を担う女性は、「二流の戦力」として、メンバーにカウントされにくいのでしょう。
実際、東京医科大だけでなくほかの多くの私立医大では、女子合格者数を抑えるという操作を行っていました。ここまであからさまではなくても、日本の組織が女性を間接的に差別している例はたくさんあります。6月8日に日本学術会議主催の公開シンポジウム「横行する選考・採用における性差別:統計からみる間接差別の実態と課題」を実施しますから、よかったらいらしてください。そこでは医療、企業、教育、メディアなど各分野について、詳しい報告が行われる予定です。
(後編に続く)
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