上野千鶴子「私が東大祝辞で伝えたかったこと」 MeTooと東京医科大問題で世論は耕された
――確かに、祝辞ではフェミニストとして長年、本や講演などで伝えてきた性差別の問題を具体的な事例とデータを交えて話しました。なぜ、今、ここまで広範な反響を呼び起こしたのでしょうか。
上野:私からすれば「ずっと同じことを言ってきた」気分です。
反響が大きかったのは、それを受け止める社会の側が変化したからでしょう。とくに昨年起きた2つの事件の影響が大きかったと思います。1つは福田淳一元財務次官のセクハラに伴う#MeTooの動きで、もう1つは東京医科大の性差別入試事件。この問題をめぐって、「世論が耕されていた」から、東大が私に依頼し、また聴衆とメディアに届く条件が生まれたのではないでしょうか。
「被害者でい続けることが新たな加害を生む」
マルクスの絶対的窮乏論がなぜ誤りかというと、被支配階級というのは、抑圧し、抑圧し、抑圧し抜くと、反発して立ち上がるのではなく、抑圧に慣れるからです。
『結婚帝国』
――性暴力を告発する「#MeToo運動」を、どう評価しますか。
上野:よくメディアから「日本では#MeToo運動が盛り上がらないのはどうしてか」と聞かれます。すごく腹が立ちますね。性暴力について異議申し立てをしている人は大勢いるし、支援する人もたくさんいる。#MeTooについても、各地で集会や抗議の動きがあったのに、「メディアがきちんと報道しない」ことが問題ではないでしょうか。
伊藤詩織さんが自ら受けた性暴力を公表したことは、日本社会に大きな影響を与えたと私は思います。反応の中で最も印象に残っているのは、中島京子さんの『本の窓』(2018年1月号、小学館)での伊藤さんとの対談です。
中島さんは伊藤さんに対して「もし私たちの世代がちゃんと声を上げていれば、社会も少しは変わっていたかもしれない。詩織さんがひとりで頑張らなければならない状況にしてしまい、本当に申し訳ない」と謝りました。同じような謝罪を、新聞労連の女性が後輩に対して述べていました。
かつて性暴力被害を告発した女性たちは、同じ女性から冷ややかな視線を向けられました。「みっともない」「恥ずかしい」とか「いなすのが大人の女」と言われて被害を耐え忍んできた。でも、受忍は新たな被害を生んでしまうんです。
「被害者でい続けることが新たな加害を生む」というのは構造的な問題です。構造化された負の連鎖を断ち切るためにも、女性が被害者でい続けてはいけない。
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