上野千鶴子「私が東大祝辞で伝えたかったこと」 MeTooと東京医科大問題で世論は耕された
――祝辞は東大を超え、日本中で読まれて大きな反響でした。ウェブメディアはもちろん、ワイドショーでも祝辞原稿を紹介しながら、女性に対する差別を扱っていました。
上野:たくさんのメディアから取材依頼を受けましたが、ほとんどすべてお断りしました。読んでいただければわかるからです。その影響か、これまで刊行した本の売れ行きがよくなったようですね。
私は同じことをずっと言い続けてきました。すべてエビデンスのあることばかりです。今回も、ごく当たり前の正論を、祝辞の10分程度にまとめて話しただけ。
ただし、メッセージが届くような工夫はしました。大学の新入生は18歳。まだ子どもです。子どもにわかる言葉で伝わるよう、専門用語を使わないように努めました。
「男子を脅かさない存在であるべき」というプレッシャー
――子どもといえば、小学5年生の息子に上野先生の祝辞を読ませたら、納得しながら読んでいました。確かに、子どもにもわかるようにかみ砕いてお話しされていました。
一カ所だけ、東大女性が東大生であることを隠すというくだりは、小5男子には理解できないようでした。「日本でいちばん頭のいい大学でしょ。すごいよね。何で隠すの?」と。
上野:小学5年生といえば、11歳ですね。まだ、その年齢だと、東大女子が大学名を隠すような性規範に染まっていないかもしれません。多くの男女は第二次性徴の頃から、ジェンダー・ソーシャライゼーション(男の子向け/女の子向け社会化)を受けます。「男はこうあるべき、女はこうあるべき」という規範を刷り込まれていきます。
とくにメディアや少女漫画からの刷り込みは大きいですね。女子は男性を脅かさないかわいい存在であるべき、という有形無形のプレッシャーを感じることになります。小学生だと、まだそういう社会的な圧力を、男女共に感じていないのでしょう。
東大の女子学生比率が2割を超えない理由は、応募者が増えないからです。これを「女性の自己選択の結果だ」と言う人もいるようですが、先ほど述べたように、女子には「男子を脅かさない存在であるべき」というプレッシャーが働きます。親も「女の子は無理して東大を受けなくてよい」とか「東大に行ったらお嫁に行けない」などと誘導したりする。その結果「アスピレーション(達成欲求)のクーリングダウン(冷却)」が起きます。この部分だけは祝辞の中で、専門用語を使いました。自己選択そのものが、性差別の結果なのです。
女子が東大を受験しない理由については、あんなに短い祝辞の中でもすでに説明していますから、ちゃんと読んでくださいと言いたいですね。
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