男性保育士が直面する現場の何とも厳しい現実 安心して預けられる環境づくりも必要だ
河西氏の実体験でも、初めて1歳児クラスの担任になった際、保護者から「担任を代えてほしい」という内容の手紙を園長に渡されたり、「なぜウチの子のオムツを彼が変えているんだ」ということを言われたりした。
また、4月の慣らし保育中には、保護者が入れ替わり立ち替わりで、窓から観察されたこともあるという。女性保育士のクラスではこのようなことはなかったそうだ。残念なことに、日本ではこれまで家庭内でも育児をするのは母親、保育士は女性が当たり前という認識が強かったため、男性が担任になると保護者が違和感を覚えたり、不安になったりすることも理解できる。
保育士同士でもジェンダー・ステレオタイプに縛られた状況を何度も目にしたという。男性だからということで、高いところに上って電球を変えたり、外遊びをしたりするのは男性保育士の仕事であるという空気を作られてしまいがちになるようだ。
このような状態は園児への影響も大きく、園児の間でも「男の子だから、これをするべし」というような考え方が無意識のうちに刷り込まれてしまうという。
モデルケースを早々に作り上げる
ジェンダー・ステレオタイプな発想はよくないというものの、性差によって身体的な力の差があることは事実である。女性保育士の声として、「男性保育士が園内にいてくれたほうが、女性保育士だけでは難しい力仕事や、地震や火事などの緊急事態が起きたときにも頼りにできる」という意見もあった。
保護者からも、男性保育士もいてくれたほうが、バラエティーに富んだ遊びを教えてくれそうという意見もあり、男性保育士にネガティブなイメージを持っていない女性保育士や保護者がいることも事実である。
今後、男性保育士の参加が増えていくにはどうすればよいのかを河西氏に尋ねた。
「子どもを預ける側も、預かる側も安心して過ごせる環境を整えるために、日本でもDBS(Disclosure and Barring Service:イギリスにおける犯罪記録チェックのリクエスト処理)の導入を進めるべきだ。そして、まずは男性保育士の比率が高い保育園をモデルケースとして運営して、男性保育士=職業というイメージを世間に定着させていくべきである」と言う。
また、ある女性保育士は「この数年で育児に参加する父親は増えたと感じているが、それでも依然として育児のほとんどは母親がしていると感じる。家庭内における父親が育児に割く時間がもっと増えてくれば、保護者が男性保育士に感じる不安も軽減されていくのではないか」と答えた。
園児にとって、保育園はもう1つの家庭である。家族にはお父さんもいれば、お母さんもいる。保育園にも男性保育士がいて、お父さんやお兄さんのような役割を果たしていくべきであり、それが実現されることで園児にとってもより豊かな保育園生活を送ることができるという。
保育士不足の解消や潜在保育士の活用を議論する際、数字だけを見て男性保育士の参加を促すという表面的な話をするのではなく、実態を十分に把握したうえで、DBSの導入や男性保育士の比率が高い保育園のモデルケースの推進など具体的な策を議論し、待機児童問題の解消と男性保育士の増加を同時に達成できるような施策が打たれることを期待したい。
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