メイ首相、「首」と「再投票」でも議会の壁は厚い 「最後の最後」までうまくいかないリーダー

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現在、実施の可能性が報じられている「再国民投票」は4度目の議会採決を前にメイ首相が繰り出した苦肉の策である。これまで固辞してきた再国民投票について遂に譲歩したことは確かに目を引く。メイ首相が野党・労働党を口説き落とすにあたって唯一効果がありそうなカードである。現状、メイ首相は今回の採決にあたっては「2度目の国民投票を実施するか議会にはかる」という条項を入れ、それが「議会で可決された離脱協定案の是非を問うもの」になることなどを想定していると言われる。

ストレートに「離脱の是非」を問うた2016年6月とはやや趣が異なるが、残り時間を考慮すれば、問われるものが(議会可決済みの)離脱協定案であろうと、離脱の是非であろうと、本質的には変わらないだろう。再国民投票で離脱協定案が拒絶されれば、「もう合意しなくてよい」という国民の意思表示と読み替えられ、かなり高い確率でノーディール離脱のシナリオが進むのではないだろうか。

しかし、再国民投票には至らない情勢

だが、現状、再国民投票は労働党の支持を得られていない模様である。やはり、「私(メイ首相)の案を飲むならば」という人質戦略は通じないということだろう。依然、4度目の否決に備えたほうがよさそうな雰囲気は否めず、それゆえに再国民投票はメイ首相の画餅に終わりそうだ。

なお、こうした状況を踏まえ、「勝算のない採決をやるくらいなら先送りが選ばれるのではないか」との見方も浮上している。実際、これまでも「勝てないからやらない」という理屈で採決を見送ったことがあるため、可能性はゼロではない。だが、既に「メイ首相の退陣が政治日程にのぼる」ということで与党・保守党内は動いており、採決を先延ばしにしても、メイ首相を取り巻く状況は何も変わらない。

メイ首相は2018年12月に保守党における不信任動議を信任で乗り切っているため、党規則によればそこから1年間(つまり今年12月まで)は信任を問われないことになっている。だが、投票の有無にかかわらず、6月にメイ首相が辞任を表明しなければ党規則を変更してでも不信任動議を提出する可能性まで報じられている。離脱協定案の採決の有無にかかわらず首相の座を追われることが決まっているのだから、「最後の勝負くらいダメ元で」という展開になるのではないか。それがメイ首相の「最後の仕事」となる。

ちなみに、新首相がボリス・ジョンソン氏のような強硬離脱派となった場合、残留への道筋を開きかねない再国民投票の芽は完全に断たれるだろう。しかし、議会の半数が強硬離脱に反対している以上、ジョンソン首相になってもなお、すぐには結論は出まい。結局、「誰がやっても前に進まない」というハングパーラメントの下では、文字通り「詰んでいる」状況が続くしかない。解散総選挙を経て、英議会の勢力図画がはっきりとしてこなければ次に進めないと考えるのが自然ではないか。

※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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