メイ首相、「首」と「再投票」でも議会の壁は厚い 「最後の最後」までうまくいかないリーダー
また、メイ首相の交渉姿勢が一貫しなかったこともまずかった。メイ首相は当初、ハードブレグジットを宣言していた。2017年1月に行った方針演説において、EUの単一市場や関税同盟から完全に離脱し、EUとの間に大胆で野心的な自由貿易協定(FTA)を締結する意向を打ち出していた。だが、遅々として進まぬ交渉過程を経て、2018年7月、メイ首相はEU法との調和などを前提においたソフトブレグジット方針に転換した。ここで主要閣僚であったデイビッド・デイビスEU離脱相やボリス・ジョンソン外相が相次いで抗議辞任したのであった。
戦局を正確に判断できず、場当たり的な判断に追い込まれたリーダーだったからこそ仲間を失ったのである。その間、野党勢に付け入る隙を与え、今や解散総選挙を実施すれば野党・労働党はおろかEU離脱運動を主導したナイジェル・ファラージ氏率いるブレグジット党にも勝てない状況に追い込まれている。離脱交渉のリーダー責任者を買って出ながら、離脱は実現できず、しかも保守党を窮地に追い込んだ政治家として英国の政治史に汚名が刻まれるのではないか。
現状に同情できる困難さは確かにある。しかし、そうした状況に至る過程でメイ首相の政治手腕に問題がなかったわけではない。現状だけを見てこれまでの戦術を評価すべきではない。少なくとも過去3年間、この問題をつぶさに見てきてブレグジット・ウォッチャーほどそう思っているはずだ。残念な話だが、今さら、「死に体」になっている「首」を差し出しても、野党が退く道理にはならない。差し出すならばもっと値打ちがあった2017年後半や2018年前半にやっておくべきだった。
離脱強硬派の登場でノーディールが意識される
辞任時期は今秋となる。具体的には、9月末から10月初めに予定されている英保守党の党大会に合わせるだろう。辞任スケジュール自体は6月3日の週に出そうだが、実際の党首交代は今秋まで待つことになる。既に5月16日に党首選への出馬を表明したボリス・ジョンソン元外相が最右翼とされており、これに元EU離脱担当相であったドミニグ・ラーブ氏などが続く。
新政権の離脱方針を語るのは尚早だが、上述した通り、ブレグジット党に大きく支持を奪われている状況を素直に捉えれば、彼らよりもさらに「右」に出る判断をしなければ党勢の回復は難しいのだろう。現状、候補者として挙がっているネームはやはり強硬離脱を押し出す色合いが強く、金融市場はこれをノーディールへの一歩として受け止める公算が大きい。
ただし、強硬に出ることが正しい判断かどうかは別の問題であるし、そう言いつつ、徐々になし崩し的にソフトへ傾斜せざるをえなかったのがメイ首相なので、現時点では何とも言えない。いずれにせよ10月31日の離脱期限まで1カ月を切ったところでメイ首相は退場となりそうだ。
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