介護にこそ「AIが必要」と経験者が確信するワケ 私たちがこれから直面する大問題

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若宮正子さん(写真提供:中央公論新社)

最初は意外に感じましたが、よく考えてみると理由がわかります。気兼ねしなくていいからです。

例えば、さっきトイレに行ったのに、またトイレに行きたくなってしまった。でも1人でトイレに行くことができない。そうした頻尿の方は、何度も人にお願いするより、近くにいるロボットを操作するほうがはるかに心理的負担が小さいですよね。

食事の際に、手元がおぼつかなくて何かを倒したりこぼしたりしたときも、ロボットは「またやったの!」なんて言ったりしません。思いすらしないのです。文字どおり、機械的に片付けをして終わり。それはとても精神衛生上いいことだと思います。私自身も自分がお世話になるなら、ロボットのほうがいいですね。

AIスピーカーはシニアの将来の救世主

ロボットの介護はまだ先の話だとしても、これからすぐ普及すると思われるのが「AIスピーカー」です。「AI? そんな最新機器使えないよ」なんて思わないでください。これこそ、我々シニアの救世主となるのですから。

AIスピーカーの何がすごいかというと、パソコンやスマホみたいに、操作手順を覚える必要がないこと。ただ話しかければいいんです。「明日の天気は?」と聞けば、天気予報のデータを勝手にサーチして「明日は晴れです」と音声で答えてくれる。使い方を習う必要がないのです。

テレビをつける、電気を消す、カーテンを開ける、メールがきているかどうか確認する……。将来的には電気器具だけでなく扉や窓、家具や調度品などとも連携して設定することで、こうした日常の動作をAIスピーカーに話しかけるだけで全部やってもらえるようになります。寝たきりになって、口しか動かせなくてもAIスピーカーは使えるのです。こんなにシニアにピッタリの家電があるでしょうか。

今はまだ、言葉の解析や音声認識の精度がそこまで高くないので、「すみません、お役に立てそうもありません」と言われてしまうこともあります。でも、日進月歩で技術が進展しているため、将来的にはモゴモゴとしゃべってもちゃんと聞き取ってくれるようになるでしょう。

こうした、スピーカーのような「もの」と「インターネット」が合体している商品・サービスのことを「IoT(Internet of Things)」、モノのインターネットといいます。モノのインターネットは、これからどんどん普及して、冷蔵庫や洗濯機もインターネットにつながるかもしれません。拒否感を持たず、AIスピーカーあたりから慣れていくことをお薦めします。

とはいえ、解決すべき問題はたくさんあります。パソコンやスマホでインターネットを使うのとは違い、サイバー攻撃や個人情報漏れなどから事故に巻き込まれる危険もあるからです。こうした安全面に十分に配慮しないと深刻な被害が発生するおそれがあります。

シニア世代向けのIoTとして昔からあるのは、見守り機能つきの電気ポットでしょうか。いつポットを使用したか、いつお湯を沸かしたかということが、メールでご家族に送られる。当時はこの程度しか安否確認の方法がなかったのです。

しかし、今は安否確認をしたいなら、デジタル媒体を使って本人が意思表示をするのがいちばんいいと思います。何かあった時にすぐに連絡できる状態にしておく。そうした場面でも、声だけで反応してくれるAIスピーカーは有用だと思います。

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