「結婚しない派」男性が40歳過ぎて変心したワケ 誰と毎日ご飯を食べるかという重要な問題

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裕也さんは誠意を示し続け、2年後にようやく結婚に至った。いま、裕也さんはかつて経験したことのない安らぎを感じている。

「いい夫になろうとはまったく思っていません。彼女からも求められないし、私も彼女に『いい妻』を強いることはしません。一緒に夕飯を食べて酒を飲んでくれればそれでいいんですよ。店を始めたのは結婚した後のことです。彼女が嫌がったら諦めてサラリーマンになろうと思っていました。でも、幸いなことに『いいんじゃない?』と認めてくれました。いずれは彼女も会社を辞めて手伝ってくれる予定です」

結婚は、してみたらいいことしかなかった

一人暮らしが長かった裕也さんは家事も一通りできる。結婚当初は料理や洗濯をよくやっていた。店が忙しくなってきた現在は、利律子さんのほうが多く分担してくれている。とくに話し合ったわけではなく、なんとなくそうなったのだ。日常的に親しく会話ができている夫婦であれば明確な役割分担などは不要なのだろう。

かつては酒場で女性に話しかけて親しくなることが多かった裕也さん。今はまったく「フラフラ」しなくなったと断言する。外食も裕也さん以上に酒好きの利律子さんと一緒に行くのがいちばん楽しいからだ。家でも外でも、その日にあったことを話しながら食事をする。利律子さんのほうも「こんなに長い間一緒にいても普通の自分でいられる相手は初めて」と言ってくれている。

「私の女は嫁だけです。それがとても楽ですね。女性関係にエネルギーを使うよりも、店の運営に集中したいので。結婚していると社会的にもちゃんとしているように見られるのは経営者として得をしています。あんなに避けていた結婚ですが、してみたらいいことしかなかった。結婚のよさにようやく気づきました」

以前はまったく子どもが欲しくなかった裕也さん。現在の年齢になって、「いてもいいかな」と考え始めている。一方で、利律子さんのほうは心の準備ができていないらしい。避妊を続けている状態だ。裕也さんもとくに不満はない。

「妹夫婦には子どもがいるので、両親には孫の顔はそっちで見てもらっています。長男だから跡取りを残さなくちゃという気持ちはありません」

裕也さんが自然体で過ごせるようになったのはやはり利律子さんの存在が大きいのではないだろうか。そう問うと、裕也さんはクールな口調に戻って自己分析をした。

「いえ。いい加減な付き合いを繰り返していた自分に嫌気がさして、次に付き合う女性は幸せにしたいぞ、と思ったタイミングで彼女と出会ったにすぎません。やはり私は自分勝手なのです」

自分の本当の欲求を素直に見つめて、周囲と折り合いをつけながら実現していくのが大人だと筆者は思う。誠意を尽くして利律子さんと結ばれ、今でも仲良く暮らしている裕也さん。40歳を過ぎて初めて大人になったのだろう。そんな「自分勝手」ならば大いに許される気がする。

大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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