「そのうえに、いい夫やいい父親になるなんて不可能です。結婚する気は長らくありませんでした」
1人になりたいと望む一方で寂しがりの側面もある裕也さん。飲食が好きで、とくに夕食は誰かと共有したい。酒場で「いい女の子」がいると話しかけ、仲良くなり、そのまま交際に至ることも少なくなかった。
「いい加減に付き合っては別れていたと今では反省しています。どの女性とも最終的には結婚するのかしないのかという話になり、私が『どっちでもいい』と言うと、相手から『どっちでもいいなら結婚しよう』と返され、それは気が進まないので同棲のままでもいいじゃんと思ってしまい……」
きっかけはある男友達との会食
軽やかな印象を受ける裕也さんだが、自分の家族を作ることには拒絶反応を示していたのだ。親しい友人にその理由を話すと、こんな指摘をされた。
「いい夫になる自信がない? いい加減な夫でも構わないと思うよ。裕也さんはいろいろ寛容なのに、その点だけはお堅いよね」
裕也さんが変わることができたのは、この友人のおかげではなく、後に結婚する利律子さんのおかげでもない。ある男友達との会食に嫌気がさしたことがきっかけだった。
40歳になったころに地元に戻り、格闘技の道場を経営しながら食品会社でアルバイトをする生活に入った裕也さん。仕事のほかはとくにやることがない。その男友達と、毎日のように夕食に行っていた。
「夕方になると電話がかかって来て、『今日どう?』と誘われました。バツイチの人だったので、『結婚なんかしないほうがいいよ』とよく言っていましたね。そうなのかな、とは思いましたが、彼とずっとメシを食い続ける人生は嫌だなと思ったんです」
その男友達には申し訳ないが、素直な感想だと思う。友達とパートナーは異なるのだ。毎日一緒に食事をしても心地よさを覚えるような相手を強く求めたときが、その人にとっての結婚適齢期なのかもしれない。
友達とベッタリの毎日に嫌気がさすと同時に、裕也さんは自己嫌悪も高まった。振り返ると、30代は自分のことしか考えず、恋人を含めた他人の気持ちがわかっていなかった。今度こそ変わりたい。次に出会う女性とはいい加減な付き合いをせず、人生を一緒に歩みたい。
裕也さんは30歳のころからある格闘技に打ち込んでいて、42歳のときに地元で道場を開いた。利律子さんはその道場に通って来た1人だ。
「でも、彼女はすぐに仕事が忙しくなってあまり来なくなりました。みんなで飲みに行ったりしてすでに彼女のことが好きになっていたので、『もう練習に来るな。オレは生徒に手を出したくないから』と伝えて嫌な顔をされましたね(笑)」
付き合ってみると、利律子さんは裕也さんと似ていた。感じがよくて寛大そうに見えるが、実は他人を信用せず、将来は好きなお酒を並べた酒場を1人で経営する夢を持っていた。裕也さん以上に結婚願望がない女性だったのだ。
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