日銀のCP購入、非伝統的な措置では従来以上に説明責任を果たせ
とにかく昨年暮れ、企業金融事情は尋常ではなかった。
信用逼迫が深刻化する中で、全国各地で企業の財務担当者たちが年越え資金の確保のために奔走した。例年であれば難なく調達できる運転資金の調達がままならなくなったからだ。
金融機関による貸し渋りの被害者として報じられる中小・零細企業だけではない。
製造業、非製造業の別なく、隆々とした大企業ですら資金繰りに窮した。直接金融市場、中でもコマーシャルペーパー(CP)市場の機能が著しく低下し、経常的な資金調達を同市場に依存していた大企業が突然、調達困難という事態に陥ってしまった。
非伝統的措置でも覚醒せず
昨年9月15日に発生した米系投資銀行、リーマン・ブラザーズの経営破綻以後、直接金融市場や銀行間の資金貸借市場であるインターバンク市場では瞬く間に流動性が急低下。その改善の見込みが立ちにくい状況にあった。
それだけに、年末に向けて、一般企業による資金取り入れの繁忙期に突入すれば、企業金融情勢が混乱することは十分に予想され、恐れられていた。が、それにしても現実は厳しかった。
日銀は政策誘導金利である無担保コール翌日物レートを2度にわたり引き下げるとともに、準備預金の所定額を超える超過準備への付利設定、日銀差し入れ担保について社債、企業向け証書貸付債権の適格要件を「シングルA格相当以上」から「トリプルB格相当以上」に緩和する措置など、金融市場への流動性供給の拡大を目指す新たな政策を相次いで打ち出した。
それでも企業金融の深刻さはなかなか改善しなかった。
結局、日銀は12月19日、CP買い上げ措置の具体的検討に入ることを正式に表明。企業金融の繁忙期が収束する今年度末越えの期間まで、2兆円を上限にCPを買い切る方針を固めた。
日銀が個別企業の信用リスクを直接的に負担することは異例の措置であることは言うまでもない。そこで、この種の政策を「非伝統的」な措置と呼んでいる。
今や、非伝統的な政策の“権化”となったのがアメリカの中央銀行、FRB(連邦準備制度理事会)である。CPはもとより、証券化関連資産、クレジット資産等々まで買い続けて、そのバランスシートは前例がない規模に膨張している。
FRB関係者は、これらの措置について「停止した市場機能を回復させるため」とし、自らの関与(信用創造)は昏睡している市場を覚醒させるための気付け薬という説明をしている。ところが、証券化関連資産からの巨額ロスの垂れ流しで過小資本状況は解消せず、アメリカの銀行、投資銀行の信用創造機能の目覚めは一向に実現しない。市場は眠り続けている。勢い、FRBによる非伝統的な政策は広がり、深まっている。
無理もない。
過小資本化の前提として、大銀行、巨大投資銀行は、その自己資本を基盤とする信用創造規模である信用乗数を異常な水準にまで高めていた。国際自己資本比率規制が銀行に要請している自己資本比率(8%)に基づくと、信用乗数は12・5倍となるが、それをはるかに上回る数十倍の信用乗数になっていたところもある。
そんな金融業が信用乗数をあるべき水準まで引き下げるとなれば、信用創造の余地など期待できるわけはない。金融機能は昏睡するしかあるまい。