「株価の上昇だけではない。金融緩和は低金利を促し、企業の設備投資も増やすはずだ」。リフレ派はこう反論するかもしれません。確かに、日銀が2013年4月から行なっている異次元金融緩和後の4~6月期のGDPでは、民間設備投資は前期比で1.3%増と6四半期ぶりにプラスに転じました。
しかしそれは、建設業が26.0%増、不動産業が20.1%増と大幅な伸びを示して全体を引っ張ったためで、大型補正予算における公共工事の増加によるものが大きいのです。肝心の製造業は9.1%減と3四半期連続で減少しました。設備投資増加の中身は、じつは寂しいものなのです。
円安でむしばまれる家計
2012年の対ドル平均為替レートである79円から100円前後まで円安が進んだことにより、期待されたように輸出量が増えたかといえば、貿易統計の推移をみているとそうでもないことがわかります。1年以上も前年割れを続けていた輸出数量は、2013年7月にようやく前年比で1.8パーセント増、8月も1.9%増となりましたが、9月は再び1.9%減とマイナスに転じ、一進一退が続いています。
円安は輸出企業の採算にはプラスですが、輸出数量が伸びないのでは、設備投資が増加する見込みはきわめて薄いでしょう。量的緩和をし、円安にしたところで、顕著な需要の増加が見込めなければ、賢明な日本企業が設備投資に動くはずがありません。
雇用環境は若干の回復を見せていますが、これは量的緩和の成果ではないでしょう。2013年7月の完全失業率は3.8パーセントで、4年9カ月ぶりの低水準となりました。ここでも数字だけを見たら、雇用環境が大幅に改善しているように見えます。ところが、被雇用者数の増減を雇用形態別でみると、契約社員、パートタイマーをはじめとする非正規の雇用者数が2013年初めから大きく増える一方で、正規の雇用者数は減少傾向をたどっています。
それを裏付けるように、4~6月期の労働力調査でも、非正規雇用で働く人は1881万人となり、四半期ベースで2002年の集計開始以来最多となっています。要するに、アメリカと同じように、日本でも雇用の質の劣化が始まっているかもしれないのです。
問題の家計の疲弊について話を戻すと、値上げはコスト・プッシュ型(コスト高による値上げ)とデマンド・プル型(需要増による値上げ)の二つに大別されますが、アベノミクスが招いたのは明らかに前者のコスト・プッシュ型です。
円安の進行が、コスト・プッシュ型の物価上昇をもたらしています。消費者物価を押し上げている最大の要因は、電気代、ガソリン代、ガス代といった輸入エネルギー価格の上昇にあるからです。円安は日本の家計を確実に蝕みはじめているのです。
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