トランプの「欧州嫌い」はここまで深刻だった 揺れる米欧関係、試される日本の戦略的外交

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トランプ大統領の強引な主張に対し、フランスのマクロン大統領やドイツのメルケル首相は格調高い説得力のある批判を展開してきた。しかし、演説だけでは米欧対立の危機を克服できない。つまり、欧州の側にもアメリカに向き合い、問題解決を図る力がなくなってきているのである。

この状況を歓迎しているのが言うまでもなく中国とロシアである。冷戦後のEUやNATOの拡大に激しく反発しているロシア、あるいは「一帯一路」の世界的展開で欧州に対しても経済的、政治的影響力を強めたい中国にとって、米欧対立と欧州の分裂という状況は、自分たちが欧州を侵食する好機と捉えている。すでに東欧の小国に加えイタリアまでもが一帯一路への参加を表明している。

自由と民主主義、市場経済を標榜してきた欧州に、権威主義国家を代表する中国とロシアが入り込んでくることは、世界秩序の変動の始まりを意味することにほかならない。しかし、そうした危機感はG7外相会合の様子を見る限りまだ十分に共有されているようには見えない。

日本初の戦略的外交が展開されている

そこで日本である。日本の欧州外交と言えば従来は英仏独とお付き合いをすることで十分だった。日本外交の中心はアメリカとの同盟関係の維持・強化であり、また中国や韓国など近隣諸国との外交だった。欧州外交はその付属物的存在だった。

しかし、日本が西側の一員として戦後秩序の恩恵に浴し、経済発展を遂げたことも事実だ。そのシステムが揺らぎ始めたのであれば、見過ごすわけにはいかない。深刻な米欧対立と欧州の分裂の危機を前にして日本政府が危機感を持つのは当然である。

安倍首相は、昨年1月にエストニア、ラトビア、リトアニア、ブルガリア、セルビアおよびルーマニアを、10月にはスペイン、フランス、ベルギーを訪問している。さらに今年1月にはオランダと英国を、そして今回、フランス、イタリア、スロバキア、ベルギーを訪問する。主要国だけでなく、歴代首相がほとんど訪問したことのない国々にまで足を運ぶのは、深刻な現実を放置できないと考えているからであろう。

これは欧州を対象とする日本の初めての戦略的外交の展開である。もちろん安倍首相が訪問したくらいで米欧関係を改善させたり、欧州崩壊の流れを食い止めることはできるはずもない。しかし、日米同盟関係にあぐらをかいていれば事が足る時代は終わりつつある。新たな時代を見据えた戦略的外交の意味は今後もますます大きくなるだろう。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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