岡村孝子さんが患う急性白血病はどんな病気か さまざまなタイプがあり治療法も細分化

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初回の寛解で、そのまま骨髄移植を行った場合、フィラデルフィア陽性の急性リンパ性白血病でも50%程度の長期生存が報告されている。抗がん剤や放射線の副作用、および移植に伴う免疫反応(移植片対宿主病、GVHD)のため、20~30%程度が合併症で命を落とす治療であるが、骨髄移植は白血病患者にとって切り札ともいえる存在だ。この治療を開発した米国のエドワード・ドナル・トーマス博士は1990年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。

さらに、今年3月、25歳以下の再発あるいは難治性のB細胞性急性リンパ性白血病に対して、CAR-T細胞療法という免疫療法も承認された。ノバルティスファーマが販売するキムリア®だ。

その効果は劇的で、同社が実施した国際共同治験では、再発あるいは治療抵抗性の小児・若年成人の急性リンパ性白血病患者50人に投与したところ、41人で白血病細胞が消失した。

さらに、最近の研究でキムリア®の効果は長続きしそうなこともわかってきた。キムリア®投与後3カ月が経過した時点で、ほとんどの患者が寛解を維持していたのだ。キムリア®は投与から20カ月が経過しても、患者体内で検出されたという報告もある。

アメリカで1回5000万円を超える治療費が問題となっているが(日本は未定)、白血病の治療を塗り替える画期的な治療法だ。岡村さんは適応にならないが、池江さんにとっては、これも切り札となりえる。

タイプによって治療法や予後はまったく異なる

以上、急性白血病治療の現状の一部をご紹介した。かつて白血病は死の病だった。1970年に公開された映画『ある愛の詩』では、ヒロインのジェニーは白血病で亡くなる。この映画から約50年が経過し、白血病は治癒が期待できる疾患となった。医学の進歩を象徴する存在といっていい。

この間、白血病は遺伝子・染色体情報に基づき細分化が進んだ。治療法も細分化されつつある。この結果、白血病の解説は実に難しくなった。タイプによって治療法や予後はまったく異なるのに、患者のプライバシーもあり、公表される情報は限られているからだ。メディア報道はどうしても中途半端なものになる。誤解と噂が広まる素地をつくる。白血病についての国民的な認識が深まることを願っている。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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