スリランカ同時多発テロの背景にある宗教対立 内戦を乗り越え観光も振興するさなかの惨劇

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その1つが、亡くなった日本人女性が家族と朝食を取っていたとされる、ゴールフェイス沿いにあるシャングリラホテルだ。中国資本などによりコロンボ港沖合を埋め立て急速に再開発が進む「コロンボフォートシティ」の向かいに建設され、2017年冬に満を持して開業した。ガラス張りのラウンジは青く輝くインド洋を眼下に称え、欧米各国を中心に世界の観光客を迎えるラグジュアリーなホテルの代表格として、国内外の賓客をもてなす場としても活用されるなど、圧倒的な存在感を放っていた。

さらに、現場の1つとなったコロンボのシナモン・グランドホテルは、格式ある5つ星ホテル。AFP通信やインドのテレビ局などによると、自爆テロ犯は朝食会場のビュッフェに並び、自分の番が来て皿を取った後に、背中に装備した爆弾を爆破させたとの情報が報じられている。イースターの休暇中ということもあり、欧米諸国からの観光客は多かったとみられている。すでに、これまでに確認されている外国人死者の国籍は、イギリス、デンマーク、インド、トルコ、そして日本など、合わせて32人以上に及ぶ。

近年は、こうした観光業の急速な発展の一方、宗教間の対立もたびたび発生していた。

昨年3月には内戦終結後初めての非常事態宣言

昨年3月には、一部の過激化した多数派シンハラ人仏教徒の集団が少数派のイスラム教徒への憎悪を煽り、イスラム教徒のみの商店や住宅を狙って放火や破壊活動に及んだ。内戦による非常事態宣言が2011年まで28年間にわたり続いていた同国において、内戦終結後初めて、10日間に渡って非常事態宣言が全土に発令される事態となった。

イスラム教徒が礼拝に集うモスクも襲撃の被害に遭い、コーラン(イスラム教の聖典)も燃やされた。事件後、被害に遭ったモスクを訪れると、襲撃に使われた石や木の枝、ガラスの破片が散乱し、大勢のイスラム教徒は仮で用意した手狭なスペースで祈りを捧げていた。

内部を片付けに訪れていた近所に住むイスラム教徒の男性は「この国でイスラム教徒は少数派ですが、平和に暮らしてきたのです。一部の過激な人たちの間で宗教間の憎悪が煽られ、このような事態が起きてしまった。スリランカで生きてきた“スリランカン・ムスリム”として、とても悲しい」と目を伏せた。

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