スリランカ同時多発テロの背景にある宗教対立 内戦を乗り越え観光も振興するさなかの惨劇
その襲撃事件から1年以上が経過し、その後は目立った宗教間の対立は発生していなかった。しかし、小さな火種は実は国内メディアでたびたび報じられてきてはいた。去年12月には仏像を傷つけたとして、2人のイスラム教徒の男性が逮捕されたほか、今年1月にはイスラム教徒の大学生グループが、仏教の古代の遺跡の前で、一様に腕組みをするポーズをして集合写真を撮影し、Facebookに投稿するなどしたことが、仏教の冒涜に当たるとして逮捕されている。
さらに、イスラム過激主義者の関係先とされる場所から爆発物が押収されるなどの事案も報じられているほか、地元メディアなどによると、2016年時点でスリランカ人32人がISに参加するためシリアに渡航したという情報もあり、イスラム教徒への取り締まりが密かに厳戒化しているのではないかとも指摘されている。
今回、襲撃を受けたのは、同じく国内で少数派のキリスト教徒であり、犯行の背景としてさまざまな憶測が各国のメディアでなされるなか、スリランカ政府報道官は、国内のイスラム過激派「ナショナル・タウヒード・ジャマア(NTJ)」が関わっているとの見方を示した。スリランカ警察内部では、海外の情報機関から「NTJ」が教会やコロンボにあるインドの高等弁務官事務所を狙った自爆テロを計画しているとの内部情報を事前に把握していたとされている。
「警告がなぜ無視されたのか」
スリランカの閣僚はツイッターで内部文書の画像を投稿し、「この事実を把握していたにもかかわらず行動が遅れた。この警告がなぜ無視されたのか、当局の真剣な対応が求められる」と強い姿勢で追及している。ウィクラマシンハ首相はこの情報が事前にあったことを認めつつ、すでに「地元の者とみられる」24人を逮捕していることを明らかにし、同時に国際的な組織との繋がりも調査しているとしている。
CNNの記者はコロンボからの中継で、「イスラム過激派が背景にあるとするならば、ISISと関わりを持つグループが、ニュージーランドの都市、クライストチャーチのモスク襲撃事件の報復を考えていた可能性がある」とも指摘しているが、現時点で海外組織について確固たる情報は明確になってはいない。
今回の逮捕者には、NTJ関係者も含まれているとみられており、同時多発的なテロの実行には、要員の確保や緻密な情報収集など、背後に大規模なネットワークの支援があったことも考えられている。インドを拠点とするイスラム過激派の流入なども指摘され、国内の過激派組織や国際的なグループとの繋がりなど全容解明には時間を要しそうだ。
スウェーデンの南アジア研究ネットワーク(SASNET)で、スリランカの過激派やイスラム教徒について詳しいアンドレアス・ヨハンソン博士は、「ここ数年で起きてきたヨーロッパでのテロ事件との類似性が見られる。事件の甚大さを鑑みると国際的なテロ組織の関与も疑われる。NTJについてはこれまであまり知られてこなかったが、スリランカで仏像を破壊するなどの行動で知られている。もし彼らが背後にいるならば、他のジハード組織やISIS、アルカイダなどとの関連性も考慮に入れる必要がある」と指摘している。
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