「治療の医者任せはダメ」と医者が力説する理由 病気になったら「正式な病名」の把握が大事だ

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また、年配の方は、医師に質問したり聞き直したりすることを難しく感じ、自分自身でも自分の病気をよくわからないままに治療を受けてしまうことが生じやすい。医師に聞けない、言えない、理解しにくい、遠慮するなど、従順すぎる患者になりがちだ。今までの医療が、このような医師と患者の関係性を作ってきたともいえるのだが、これからは双方の努力で変えていくべきではないか。

どうしても本人が聞けない場合には、家族など誰か頼りになる人に一緒について行ってもらうことが大切だ。遠慮してしまう本人に代わって聴いてもらうことができるだろう。また、重い病気を知らされるとき、本人はそれだけで動揺してしまい何を聞いたかもわからなくなってしまうが、家族なら比較的冷静に聴くことができる。

積極的に情報を得ることが重要

以前は、がんのような重い病気を伝えるときには、入院中に、家族などを病棟に呼び寄せて行い、時間も注意も十分にとったうえで行える環境にあった。そして、伝えた後にも、継続的に家族や病棟の職員が気を配れる場所に患者はいた。

しかし、現在は、在院日数(入院期間)の短縮化が進んでおり、検査などはなるべく外来で行い、入院は治療など入院中にしかできないことに限るという方向へ進んでいる。そのため、患者さんは外来で重要な病気を伝えられた後に、1人で病院から帰宅するという状況が生じている。

欧米の病院では、病院の中に気持ちを落ち着かせる場所(スピリチュアルケアの場所)があったり、ケアをする専門の職員もいたりする。だが、日本ではまだそのような体制ができていないので、外来での病気の説明の後は、医療者の目が行き届かないのが現状だ。だからこそ、誰か頼りになる人と一緒に行くことをおすすめしたい。

医療情報のリテラシーは本当に難しい。ただし、難しいからといって完全に他人任せにするのは考えものである。後悔しないためには、自分自身で情報の収集にしっかりと関わることが必要となる。

ただし、インターネットを利用して検索してみると、ますますどうしてよいのかわからなくなってしまうということも生じがちだ。そんな時には、自分だけで悩むのではなく、相談に乗ってもらえる医療者がいることが助けになる。

そんな人を普段から身近に確保しておくことも、大切なコツの1つとなる。その病気の専門医でなくてもよい。身近にいるかかりつけ医も、医療者として適切なアドバイスができるはずだ。自分でも積極的に情報を収集したうえで、医師や看護師など医療者のアドバイスもあれば、それは自分の医療における決断の上でとても参考になるだろう。いのちに関わる大切な決断をする時には、それくらい慎重であって欲しい。

加藤 眞三 慶應義塾大学看護医療学部教授

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かとう しんぞう / Shinzo Kato

1956年生まれ。1980年に慶應義塾大学医学部卒業。1985年に同大学大学院医学研究科博士課程単位取得退学(医学博士)。米国マウントサイナイ医学部研究員、 東京都立広尾病院の内科医長、内視鏡科科長、慶應義塾大学医学部・内科学専任講師(消化器内科)などを経て、 2005年より現職。著書に『患者の生き方』『患者の力』(ともに春秋社)などがある。毎月、公開講座「患者学」を開催している。
 

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