農林物輸出「その他のその他」が品目1位のナゾ 安倍政権の悲願「1兆円目標」達成間近だが

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数字から判断すれば、実態がよくわからない「その他」3兄弟は、間違いなく農産物輸出振興の最大の立て役者だ。ところが、表だって政府資料に登場することはない。農水省や安倍首相が輸出の成果で強調するのは、牛肉や牛乳、リンゴ、コメなど、誰が見ても農産物と分かる品目ばかり。加工度が低いリンゴなどの品目が、農家の懐を潤すのは確か。一部を輸出に回すことで、国内需給が引き締まり、輸出額以上の農業振興に役立つ実態もある。私は「農産物輸出が悪い」とは考えてはいない。

一方で輸出の大半を占める加工食品の場合は原料納入を通じて輸出額のごく一部しか農家には還元されない。ブラックボックスである「その他」の輸出は、ほとんど国内農業への貢献はないだろう。

メントールに代表される有機化学品(76億円)、各種の化学工業生産品(17億円)などは本来農産物とは言えない。「輸出額の対象は所管物資を集めた」(輸出促進課)というのが農水省の弁明。あたかも、農林水産物・食品輸出すべてが農業所得に直結しているかのような安倍政権の宣伝ぶりに異議を唱えたい。

政府として農林水産物・食品の1兆円輸出目標を初めて掲げたのは、10年以上前の第1次安倍政権の時だ。2006年9月29日の165回国会の所信表明演説で安倍首相は「日本の農林水産物や食品は国内向けとの固定観念を打破するため、おいしく安全な日本産品の輸出を、平成25(2013)年までに1兆円規模とすることを目指す」とぶち上げた。その後、民主党政権を挟んで2012年末に第2次安倍政権が誕生した後も1兆円達成を唱え続けてきた。

背景には貿易交渉へのもくろみか?

背景には、何があったのか。当時、農水省の交渉官だった明治大学の作山巧教授は次のように説明する。

「安倍政権はオーストラリアなどとの経済連携協定交渉を進めるうえで、反対する農家の説得に苦慮していた。相手国と市場開放交渉がまとまれば日本は輸入農産物が増えるからだ。そこで日本産農産物輸出拡大を持ち出して『相手にも関税を引き下げさせるから』という理屈をひねり出し交渉の風当たりを避けようとした。第2次政権で環太平洋連携協定(TPP)交渉に邁進した際にも、日本からの輸出拡大を言い訳の1つにした」

安倍氏が農産物輸出拡大を言い出したのは農家の所得向上という大義名分とは別に、貿易交渉を警戒する農家を納得せねばならないという側面があった。実質的には目くらましと言っていい。

農水省は過去の数々の農業交渉で、外国政府はもちろん、官邸や外務省から受ける圧力を、さまざまな工夫でかわしながら自由化のペースを遅らせようという努力をしてきた。政府の一官庁ではあるものの、小規模農家が多いという日本の農業を担当し、現実を配慮したためだ。ところが、今は他官庁と同じように、官邸から流れてくる指示を競うようにこなすことに血道を上げているように見える。

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