農林物輸出「その他のその他」が品目1位のナゾ 安倍政権の悲願「1兆円目標」達成間近だが

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国内農業よりも数字を伸ばすことにしか頭が回らない今の農水省の姿勢を象徴する出来事が今年3月にあった。

平成30(2018)年度に輸出で優れた功績を挙げ、農林水産大臣賞をもらった6事業者を表彰する式典が東京都内で開かれた。会場で資料が配付された。その内の1社の受賞理由に「日本国内で売られている価格と同程度で販売する」ことの大切さが挙げられていた。

この会社は原材料の一部は地元産品を利用するものの「適正価格の実現のために米粉は(安価な)輸入したものを使っている」と審査資料は強調する。米(コメ)は国の農産物輸出戦略の中でも最重要品目の1つだが、国産米原料を使わず安価な輸入の米粉を利用した点を大臣賞選出の理由の1つにした。

自社製品の輸出を増やすため、安価な輸入原料を一部に使ってコスト削減することは、企業判断として何らおかしくはない。しかし、農産物輸出振興の旗を振る政府が、そうした企業に大臣賞を与え、全国の事業者に「まねをしろ」と推奨するとなると話は別だ。

明確なルールがないまま進行されている輸出振興策

アメリカや韓国では農産物輸出のマーケティング支援をする制度がある。海外の展示会に出品したり、PRをする際に一部を助成したりするものだ。そうした支援の際のルールの1つに「予算を割り振るのは、国内農産物が半分以上入っているのが条件」という原則が明記されている。欧州連合(EU)も目標として域内農業の競争力強化が掲げられ、支援対象は高品質の地場産の農産物・食品に限っている。

日本政府の輸出振興策にはそうした明確な国産農産物利用のルールはない。農水省は100億円近い農林水産物・食品輸出促進の予算を抱えているが、「国内農業だけではなく、農水省が管轄する食品産業を含めた幅広い分野で海外市場を開拓するのが狙い」(輸出促進課)として、農産物輸出に占める国産農産物優先の原則をルール化することに消極的だ。

2019年中に農林水産物・食品1兆円達成という目標に向け、安倍政権は追い込みに入っている。農水省は傘下の団体や企業に、数字の積み上げに向け号令をかけている。怪しい品目や輸入原料をかき集めて数字を達成したところで、何が見えてくるのだろうか。

山田 優 農業ジャーナリスト

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やまだ まさる / Masaru Yamada

日本農業新聞を経て、農業ジャーナリスト。

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